TRFのダンサーとして一世を風靡し、61歳となった今もなお、”踊り続けられる体”をキープしているSAMさん。ここ数年は、ダンサーや演出家としての活動のほかに、高齢者向けのダンスワークショップを開くなど、社会に向けた発信もますます盛んに。そのきっかけとなった出来事や、現在力を入れているという「ダレデモダンス」の開発秘話、自身の健康維持法などについて、幅広くうかがいました。

SAMさん(TRF)インタビュー、還暦を過ぎ、「踊る」以外の活動もますます盛んに、ダレデモダンス

■還暦を過ぎ、「踊る」以外の活動もますます盛んに

ダンスは「見せるもの」から「社会に役立つもの」へ

昨年、デビュー30周年を迎えたTRFのダンサー・SAMさん。ほどよい筋肉をまとったバネのような体は、『EZ DO DANCE』を踊っていたころと印象がほとんど変わらず、還暦超えとは思えないほどの若々しさに驚かされます。これほどまでに、健やかさや美しさを保っていられる理由は、ダンスをするための体作りをきちんと行っていることに加え、現在のライフワークとなっている「シニア向けダンスの啓蒙活動」などで、日々が大充実していることにあるよう。



「すべての始まりは、TRF結成20周年のときに『EZ DO DANCERCIZE』(イージー・ドゥー・ダンササイズ)というエクササイズDVDを発売したことでした。それまでは、ダンスは自分で踊るもの、人に見せるものという意識が強かったのですが、『ダンスでみなさん自身に何かを還元できないか』と思って作ったこのコンテンツへの反響が、予想以上に大きくて。社会に役立つツールとして、ダンスはまだまだ大きな可能性を持っていると考え始めたんです。2012年というと、ちょうど日本が”超高齢化社会”の入り口に差し掛かっていた時期。そこで、シニアの方に向けて、健康寿命を延ばすためのダンスエクササイズを作ろうと思い立ちました」

SAMさん(TRF)インタビュー、還暦を過ぎ、「踊る」以外の活動もますます盛んに、ダレデモダンス

まずは、SAMさんのダンススクールの生徒だった2人の医師に声をかけ、手探りで試作品を作ることに。ところが、高齢者の方々に何が有効なのかも分からないまま進める作業は、雲をつかむようなものだったといいます。

「エビデンスもないし、自分たちがやっていることに確信が持てなかった。そんなとき、『地域のお祭りでダンササイズをやってくれないか』と声をかけてもらい、パフォーマンスをすることになったんです。それをたまたま観に来ていた循環器系の医師をやっている親族から、『ダンスは心臓病のリハビリにすごく有効だと思う。一緒に運動を考えましょう』と誘ってもらい、本格的な創作に入りました。循環器科の患者さん20名を被験者とし、簡単なステップをしてもらって血圧や心拍数を測ったりを週に一度×3カ月間。医師や理学療法士の方に立ち会ってもらいながら、どこまでならできるか、どんな動きが危ないか、などを確認しながら開発できたので、とても有意義でしたね」

そうしてできあがったのが、現在SAMさんや資格を持ったインストラクターが全国でワークショップを開きながら指導している「ダレデモダンス」です。

「僕が提唱している『ダレデモダンス』は、音楽に合わせて4分半踊るというプログラム。普通のダンスよりテンポを落としてあり、足がもつれるようなステップなどは排除してあるので、高齢の方でも安心してできるものになっています。開発の際にご協力いただいた高齢者のみなさんも、最初は『何をやらされるんだろう』と不安そうな顔をしていたんですが、やってみたら段々と笑顔が見られるようになって。その変化に驚きましたね。ダンスって、日本では若い世代には浸透しているけれど、一定の年齢層以上の方は、まったく通ってこなかった分野。でも、まずは『カッコよく踊ろう』とか『上達しよう』なんて考えず、好きな音楽に合わせてただ体を動かすだけでOKなんです。世代関わらず、踊ってみたら、たいてい『ダンスってこんなに楽しいんですね』と明るい表情になります。そういう姿を見られただけでも、このダンスを作ってよかった! と心から思いますね」

■SAMさんが出会った「ジェロントロジー」とは?

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「ジェロントロジー」は高齢化社会をいかによりよく生きるかを探求する学問

今回、「ダレデモダンス」をつくるのと前後して、SAMさんが学んだのが「ジェロントロジー」という聞き慣れない学問。辞書には、「加齢に伴う心身の変化を研究し、生涯をよりよく生きるための方法を追求する学問」とありますが、一体どのように出会ったのでしょうか?

「山野美容専門学校の二代総長・山野正義さんがご健在だったころ、僕の活動を知り、『SAMさんがやっていることに有効だと思う』とご紹介してくださったんです。単純に”未知なる学問”として興味が湧きましたし、老化がどう起こって、何がアンチエイジングにいい作用を起こすのかを学べれば、『ダレデモダンス』のエビデンスになるのではないかと。それで、山野さんの美容学校と提携している南カリフォルニア大学のオンラインの講義を受け、修士の学位を取得しました。学びを通して感じたことは、頭の中で『これは何のためにやるのか』ということが分かっていると、より効果的なアプローチや、そこから派生する新たなことを考えるのに役立つということ。もちろん、『ダレデモダンス』も、前以上に自信を持って紹介できるようになりました」

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ジェロントロジーを学んで、改めてSAMさんが感じたのが、「ダンスには”いい要素”しかない」ということ。ダンスが生み出す好循環が、体だけでなく、精神にもいい影響を与えてくれるといいます。

「僕が提唱しているダレデモダンスは、有酸素運動を重視したもの。音楽に合わせて運動するだけで、まずは心肺能力や筋力が上がります。筋力が上がると、内臓も筋肉でできているため、体の中が強くなる。そうすると、免疫力も上昇するので、病気になりにくい体になります。また、動きを見て真似をし、覚えることが、記憶力UPや認知機能改善に。さらに、下半身と上半身で違う動きをするということが、脳トレにも繋がります。本当に、ダンスっていいこと尽くしなんです! それと、見過ごせないのが音楽の効果の大きさ。音楽を聴くだけでポジティブな気持ちになるという側面と、音に合わせて正確にタイミングを見て動くことが、これもまた脳にいいとされているんです」

健やかな体へと導いてくれる直接的な作用はいわずもがな、さらにSAMさんが考えるダンスの波及効果は、「人の孤独化を防いでくれる」ということ。

「ダンス教室に通い出すと、そこで友だちができて、所属するコミュニティがひとつ増える。『あそこに行くと楽しい時間が過ごせる』という場所を持つことは、精神的にすごくいい作用があると思います。年齢を重ねると、体力が落ちて外出が億劫になるという人も多く、友だちも段々と減ってくる。特に男性は、60代で退職すると居場所がなくなってしまうという話をよく聞きますよね。けれど、定期的にダンスに通うようになれば、そこが自分の居場所になるんです。実際、おじいちゃん、おばあちゃんでも、ワークショップに参加するようになってから、キラキラし出す方が多いんですよ。有酸素運動でデトックスして肌もきれいになるし、人に会うために身なりを気にするようになって、気持ちに張り合いが出るという声も聞きます。まずは勇気を出して、”参加する”ことから始めてみてほしいですね」

■60代のSAMさんが実践しているトレーニングとは?

健康寿命を延ばすのに大事なことは「自分の体は自分で動かす」という意識

SAMさん(TRF)インタビュー、還暦を過ぎ、「踊る」以外の活動もますます盛んに、ダレデモダンス、ジェロントロジー

還暦を過ぎているとは思えない体型を保ち、精力的に仕事や社会貢献に邁進しているSAMさん。ご自身の体の管理は、かなりシンプルながら、やはりそこには日々の運動がきちんと組み込まれているといいます。

「毎日何らかの形で動いているからこそ、自分の体には敏感なんですが、40代後半から老化を強く感じるようになってきましたね。若いころは当たり前のようにできていた動きが突然できなくなったりとか、体のキレが悪くなったと感じます。40代はそれを見て見ぬふりしていたというか、お酒もたくさん飲んでいましたし、そのせいでトレーニングを怠ってしまった。50代に入って、さすがにそのままだとまずいと夜更かしをやめ、お酒はほどほどに。今は、毎日の犬の散歩に加えて、腹筋と腕立て伏せを100回ずつ、ストレッチは2日に1回くらいのペースで行っています。回数だけ聞くと驚かれるかもしれませんが、ゆっくりと時間をかけて行うソフトなものなので、激しいトレーニングをしていたころよりケガもぐんと少なくなりました。食事も、あまり細かく気にしてはいませんが、たんぱく質中心に食べたいものをたくさん摂るようにしています。そんな暮らしを続けているため、体力や筋力は昔より落ちているかもしれませんが、今が一番”健康的”とは言えるかもしれませんね(笑)」

自身も年齢を重ね、またジェロントロジーを学んだ上で、SAMさんが辿り着いた、「生き生きと長生きするために最も大切なこと」とは、一体何なのでしょうか?

意識して、自分の体を自分で動かす”ということに尽きますね。歳を取ると、若いころは無意識にやっていたことが、徐々にできなくなってくる。例えば、椅子から立つときも、以前はすっと立ち上がることができたのに、段々と机やひじかけに手を付いて支えないと立てないようになってしまうことも。そこで、あえて手を使わずに立つようにするだけで、脚や全身の筋力がキープできるようになります。また、家やオフィスでは思っているより座っている時間が長いもの。そこで、座ったままかかとの上げ下げをしてふくらはぎの運動をしたり、胸を前に出して姿勢を正すだけで、体を支える筋肉を鍛えることができます。こういう生活の中でできることを、気付いたその日からすぐに実践していくことが、100年動ける体に繋がっていくと思います」

血流がよくなれば、血色もUP。ファンデーションを塗るより効果があるかも!

最後にSAMさんに教わったのが、マキア読者にも簡単に取り入れられる、1日の始まりに有効な、「体のスイッチを入れるストレッチ」。



「長時間の有酸素運動や、筋トレというとハードルが高くなってしまうので、普段運動をしていない方は、まずは“血流をちょっぴりよくする”ということから始めてみるといいと思います。例えば、以下で紹介している、10~15秒間の腕のばしやアキレス腱のばしを、左右行うだけでも効果的。体の痛みやだるさは、血流がよくなると改善されることがほとんど。リラックスして腕や脚の関節や腱をゆっくりのばすことで、血の巡りがよくなり、じんわりと体が温まって動きやすくなりますよ」



血色がよくなると、自然と肌がきれいに見えて、ヘルシーな美しさが増すといううれしい効果も。



「ダレデモダンスに参加した70代のおばあちゃんから、『久々に自分の手の平がきれいなピンク色になったのを見た』と、うれしそうに言われたことがあります。動けば、いくつになっても体は応えてくれる。80代になっても、鍛えれば筋肉はつくし、ワークショップには92歳の方が参加されたこともあります。体にいいことを始めるのに、遅過ぎることも早過ぎることもないんです。気付いたら、その日が運動を始めるベストタイミング。服装がどうとか、踊れないなどということは気にせずに、そしてノルマも作らずに、できることからやってみる。散歩してみるもよし、寝る前にちょっとストレッチするもよし、ダンス教室に通うもよし。健康に長生きするために、まずは自分で意識して体を動かすという一歩を、踏み出してほしいですね」


SAMさん直伝。超簡単「体のスイッチを入れるストレッチ」

SAMさん(TRF)インタビュー、還暦を過ぎ、「踊る」以外の活動もますます盛んに、ダレデモダンス、ジェロントロジー、ストレッチ

まずは、片腕を上に向けて肩の高さまで上げ、反対の手で指先を手前に引っ張り、腕の内側を15秒間のばす。そのときに腕の内側のラインを意識すると、肩のインナーマッスルまでじんわりと温まって効果が高まる。逆手に替えて、もう片方も15秒間のばせば完了。

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次は、壁を使ったアキレス腱のばしを。壁に向かって手の平をつき、腕がのび切るくらいの場所まで体を離して、ゆっくりとアキレス腱をのばす。こちらも15秒間かけ、あまり反動をつけないこと。逆脚も同様に15秒間のばす。「第2の心臓」と呼ばれるふくらはぎを刺激することで、血流がよくなり、頭や体が働き出すので、まさに朝の起き抜けや、デスクワークの合い間などにおすすめ!

SAMさん

TRF

SAMさん

1962年、1月13日生まれ。15歳でダンスを始め、19歳で「全国フラッシュダンスコンテスト」で優勝、単身ニューヨーク留学へ。1993年に小室哲哉氏プロデュースの「TRF」の一員としてメジャーデビュー、「EZ DO DANCE」や「BOY MEETS GIRL」などが大ヒット。ダンサーとしてだけでなく、振付師、演出家としても活躍。還暦を記念し、昨年『いつまでも動ける。 年をとることを科学する、ジェロントロジー』(クロスメディア・パブリッシング)を出版。 現在、能とダンスを融合した新しい舞台芸術を準備しており、今年のクリスマスイブには宝生能楽堂で初舞台を予定している。

<information>

★日本武道館ライブ
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2024年2月18日(日) 開場17:00/開演18:00 日本武道館
【前売】全席指定  9,800円(税込) 
詳しくは、TRFオフィシャルサイトをCHECK! 

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★ダレデモダンス
医師や理学療法士の監修のもとでつくりあげた誰もが無理なく踊れるダンスプログラムDVD「ダレデモダンス アクティブシニアプログラム~BoyMeetsGirl~」。これまでダンスにふれる機会のなかった方やシニアの方も健康的に有酸素運動ができるよう、安全性・運動性に配慮し、関節への負担、転倒に繋がりやすい動きなどを排除。各人の身体状態に合わせて無理なく踊れるよう、椅子に座ったままのエクササイズ方法も紹介。収録内容は、ストレッチ、レッスンパート、ダンスパートに分かれており、全40分程度。

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 ★リバイバルダンス
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撮影/アベユキへ ヘア&メイク/油屋嘉明 構成・文/栗田瑞穂 企画/有住美慧(MAQUIA)

最終更新日:

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