女性は更年期を迎えると、火照りや冷えなどの体調不良に加えて、眠りが浅くなる人、寝つけない、寝汗で起きてしまう……などの睡眠障害の悩みが増加。産婦人科医・高尾先生に、更年期ならではの睡眠障害の原因と改善法を教えてもらいました。

40代の睡眠クライシスを解決する! 更年期による睡眠障害の原因と対処法_1

高尾美穂先生

産婦人科専門医・医学博士

高尾美穂先生

女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。“すべての女性によりよい未来を”をモットーに、医療・ヨガ・スポーツの3つの活動を通じ、専門的な知識を分かりやすく伝える啓発活動に実施。YouTube「高尾美穂からのリアルボイス」を毎日更新し、女性の健康のみならず、よりよく生きるためのヒントを発信。

更年期になると睡眠障害に悩む女性が増加

「以前から睡眠時間が少ないと言われている日本。2021年の調べでは、OECD加盟国33ヶ国中、日本は最下位の442分(7.3時間)という結果が出ました。男女別で見てみると圧倒的に女性の睡眠時間が少なく、しかも50代>40代>30代の順で短くなっていきます。40代以降で“不眠”と感じている女性は約40%まで達し、これは50歳前後に起こる卵巣機能の低下の影響も否めませんが、女性の社会進出による育児と仕事の両立、さらに高齢出産の増加による育児と介護のダブルケアも理由として考えられます。30代後半以降は卵巣から分泌されるエストロゲンの量が少しずつ減少していき、40代後半から本格的に更年期がスタート。火照りや冷え、肩こり、腰痛、内臓の機能低下による消化不良など、さまざまな症状が表れますが、その中のひとつが“不眠”。眠りが浅い、熟睡しにくい、寝てもすぐ目が覚めてしまう、眠れないといった状態が続くことを指します」(高尾先生、以下同)

更年期の睡眠障害の中でも
特に多いのが“中途覚醒”

「“不眠”といっても種類はいろいろあります。寝ようとして横になっても、なかなか寝付けない『入眠障害』、睡眠中に何度も目が覚め、その後も寝つけずに苦痛を伴う『中途覚醒』、望む時刻よりも2時間以上早く目が覚めて、その後、眠れなくなる『早朝覚醒』、十分な睡眠時間を取っているはずなのに疲れが取れない『熟眠障害』。その中でも更年期の睡眠トラブルに多いのが寝汗による『中途覚醒』です」

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「寝汗によって中途覚醒を繰り返し、寝不足が続くと、日中の集中力が落ちてメンタル不調にも繋がります。更年期の睡眠トラブル対策は、この負のトライアングルをいかに改善していくかがポイントになります」

更年期の睡眠障害の対処法

“中途覚醒”は
すぐに寝直すことが大事


「途中で目が覚めても、再度スムーズに眠りにつくことができれば問題はありませんが、快適な温度に保たれた寝室にも関わらず急激に汗をかき、その不快感で再び目が覚めてしまうことも。目が覚めてしまった場合は、暗い部屋の中で着替えを済ませ、“もう一度絶対に寝る”という強い意思を持って寝直すことが大切です。一度、起きてしまったからといって、“今、何時かな?”と、ついスマホの画面を見たり、明るい部屋で着替えをすることは控えましょう。トイレなどで目が覚めてしまった場合も同様に、あえて明るい電気をつけずにトイレへ行くようにすれば、その後比較的すぐに入眠できますよ」

夜に向けてメラトニンを産生し、
眠りの質を上げる



「私たちの睡眠は、想像以上に光の影響を受けています。朝、太陽の光を浴びてから約14~16時間後に体内で“メラトニン”という睡眠ホルモンが分泌されます。例えば、朝6時に太陽を浴びたら夜22時頃に眠くなるという性質を持っています。入眠時によく眠れるようにするためには、日中にしっかり太陽の光を浴びてメラトニンの産生を誘導することが大切です」

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「上の表は、朝から夜にかけての体内の変化と、おすすめの照明色を示したもの。夕方以降はオレンジ色のライトをメインにし、明るい光を浴びないことを意識して。特にパソコンやスマホの画面から発せられるブルーライトは、太陽光に似た白い光なので、脳が間違って昼だと錯覚してしまいます」

有酸素運動が効果的

「適度に体が疲れていないと寝つけないので、日中に30分程度の運動がおすすめ。食後の運動は胃腸に負担をかけてしまうので、夕食前がベスト。特に19時頃は体温が一番高い時間帯で、覚醒度が高く筋肉がよく動きます。この時間帯に有酸素運動をすることで深部体温が上がり、その後、就寝前に一気に下がることで、心地よい眠りへと誘ってくれます。しかし21時以降の激しい運動はリラックスするための副交感神経のレベルが低下し、寝つきが悪くなってしまうので、ストレッチ程度にとどめておきましょう」

酷い場合はホルモン補充療法も検討を

「生理痛と同様に更年期の症状にも個人差があります。体調がイマイチ……、と感じたら、婦人科を受診しましょう。ホルモン補充療法(HRT)は、減少した女性ホルモン(エストロゲン)を補う治療法で、更年期以降のエストロゲンの急激な減少のカーブを緩やかにし、症状を緩和します。HRTを約2カ月程度継続することで、のぼせやホットフラッシュ、異常発汗、動悸などの症状の約9割が改善されるといわれています。発汗による中途覚醒を改善できる可能性は高く、さらにホットフラッシュが治まることにより寝つきがよくなったり、中途覚醒が減るという報告もされています」

睡眠環境の要、寝具にもこだわりを!

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西川 日本睡眠科学研究所より

西川株式会社では、1万人の睡眠実態を調査した『西川 睡眠白書2023』の中で、更年期と眠りの関係についても調査。45歳~60歳の男女において、よい睡眠の後では更年期の症状の感じ方について「症状なし」と回答した人の割合が増加。さらに、良質な寝具を使用することで、更年期症状の一部が緩和するといった研究結果も。睡眠障害に悩む人は寝具を見直すことも大切です。西川では更年期による眠りの質の低下を改善するマットレスを開発。

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体圧を分散しながら体を支える適度な硬度と、寝返りしやすい弾力性を兼ね備えた4層構造のマットレス。[エアーSX]マットレス レギュラー ¥176000~、[エアーSX]マットレス ハード ¥198000~/西川

お話を伺ったのは……
安藤 翠さん

日本睡眠科学研究所

安藤 翠さん

人間の睡眠生理の解明やより良い睡眠環境の開発を目指し、寝具業界としては先駆けとなる研究所として、1984年に設立された『日本睡眠科学研究所』在籍。

西川の研究機関「日本睡眠科学研究所」と、同志社大学 アンチエイジングリサーチセンター・米井嘉一教授と、4層特殊立体構造マットレスの使用が睡眠の質ならびに、更年期症状に及ぼす影響について検証。



「良質な寝具を使用することにより、心身ストレスが低下して更年期症状の一部が改善したということが実証されました。寝具に加え、アロマを焚いたり、ヒーリングミュージックを聴くなど、自分なりの“入眠儀式”を取り入れて寝室環境を工夫することで、より心身ストレスが低下し、症状を緩和できる可能性があると考えています。一般的に睡眠状態は年齢に伴い変化し、歳を重ねるごとに睡眠の問題が増えていく傾向にあることから、睡眠クライシスに悩んでいる方は、睡眠環境を見直すことをおすすめします」(安藤さん)



「眠っている時間を疎かにしてしまうのは、寝ている間の意識がないから。眠るという行為は“起きている時間をよりよくするため”でもあります。眠りをよくするためにライフスタイルを見直すことはもちろん、自身の睡眠の状態を知ることも大切です。例えば、私も使っているのですが、睡眠状態を記録する『Sleep Cycle』というアプリを活用することも◎。睡眠記録をとり、睡眠リズムを把握することも快眠への糸口になるでしょう」(高尾先生)

イラスト/熊野友紀子 構成・文/佐藤 梓 企画/有住美慧(MAQUIA)

最終更新日:

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