「MAQUIA」5月号では、ビューティ界を牽引するプロフェッショナルたちに、ポジティブな美容のあり方をインタビュー。齋藤 薫さんの美容論から、私たちが“美容をし続ける理由”を見つけて。

齋藤 薫さんが考える、美容の役割とは? 「キレイな人ほど、もっとキレイになる本当の理由」_1

見て、感じる、美容格言

“美容でポジティブ”ってこういうこと!

自分自身を大切に慈しむこと。美を粧(よそお)い、小さな変化を楽しむこと。美容とは、そんな喜びあふれるものであってほしい、とマキアは考えます。そこで本企画では、ビューティ界を牽引する7名のプロフェッショナルが考える、ポジティブな美容のあり方をクローズアップ。それぞれの揺るぎない信念や美に対する価値観がにじむ真摯なメッセージに触れれば、美容でハッピーになるヒントが見つかるはず!

美容界をリードする賢人と考えてみました

齋藤 薫
(美容ジャーナリスト)
×
生きる喜び
その鋭い観察眼で、常に社会全体を俯瞰的に見つめ続ける齋藤薫さんが考える美容の役割。社会が大きな過渡期にある中、なぜ私たちは“美容をし続ける”のか。その理由を探ります。


キレイな人ほど、
もっとキレイになる本当の理由
「最近キレイになったね」そう言われた時の自分をここでちょっと思い出してほしい。その喜びは、他のことでは置きかえがきかない特別なものだったはず。なぜなら、褒められることで生まれるドーパミンは、別格の快感を伴い、さらに褒められようという新たなエネルギーを生むホルモン。人はその快感を脳で記憶し、何度も繰り返し同じ快感を得ようとする。その記憶が新たな意欲を生むからなのだ。褒められた人は毎朝毎晩、無意識に「またキレイになったね」と褒められたくて美容する。だからキレイな人は、もっとキレイになる運命にあるのだ。人間は全員が“褒められて伸びるタイプ”なのである。


「私って社会に必要?」
「誰も私を見ていない……」
でも今“人に会わないか、会ってもマスク”という予想もしなかった日常で、褒められる機会も意欲も減っている。単調な巣ごもり生活に「私って社会に必要?」と思ったり、外せぬマスクに「誰も私を見ていない」と思ったり、誰もが少しずつ自己肯定感を低下させた。でもそれは、逆に“自分のことで頭がいっぱい”だから陥る自己否定。この特別な一年は、世の中の人ほぼ全員が同じ気持ちになっていたのを忘れてはいけない。


そこで巣ごもり美容だけでなく、時々は家にいてもフルメイク。マスクなど気にせず真っ赤なリップをたっぷりと。その時きっと「私ってこんなにキレイだった?」と息を呑むのだろう。メイクはそもそも自分を驚かすためにあるのだと私は思う。自分を感動させない無難なメイクを続けるのは人生の無駄。無駄などころか、自分に飽きて肯定できない原因ともなりがちだ。だから失敗を恐れず、目が覚めるほどにキレイな自分を作って自分に見せつける。それもまた、他の事では置きかえのきかない自信につながり、次はもっとキレイな自分を見たいとの意欲を生むはず。そして早く出かけたい。誰かと会いたいという衝動を生むのだ。社会に目が向いた時、自分ばっかりになっていた自分が、“誰かに愛される自分”に変わる。それこそが美容の力!


じつは、キレイになる意欲は生きる意欲とよく似ている。美容するエネルギーは生命力に近いもの。自分を磨く行為がまるで命のポンプのように新しい命を吹き込んでいく。とりわけ丁寧に磨いて作った筋肉は、そのまま生きる気力に変わるのだ。疲れていても落ち込んでいても、すっと立ち上がる気力は、筋肉から生まれるもの。顔の表情筋も、後ろ向きな心を一瞬で前向きにする力を持っている。口角が上がれば、心も体も全身が前向きになるという人間の体の仕組み。不思議すぎるけど、それも神様が私たち人間をそういうふうに作り、体と心に同時に光をもたらす術を与えてくれたのだ。


だから美容する人は、死にたくならない。美容するほど生きたいと思い、生きようとするほど美容したくなる。生と美はそうやってお互いを高め合いつつ、人を輝かせるのだ。だから今こそ立ち上がり、命を丸ごと磨いてほしい。

美容ジャーナリスト/斎藤薫

自分で自分に触れてあげる。
自分で自分を抱きしめる
もちろん美容は不要不急。でも一方で、人の命を輝かせる、一番身近で一番簡単な方法であるのを忘れないでほしい。たとえ失敗や挫折があっても、肌を潤さなきゃという小さな気概さえあれば、枯れかかった花でさえ、また息を吹き返す。たとえ気持ちが底まで沈んでいても、手のひらで両頬を包みこんであげるだけで、きっと心がポッと温かくなる。辛い時ほど、自分の手で自分自身を手当てしてあげてほしいのだ。人と触れ合えなくなって早くも1年、自分で自分に触れてあげる。自分の体を両腕で抱きしめてあげる。そんなことさえも、実は命を磨く美容であることを知っておいてほしい。
最後に言いたい。人はなぜ前向きにならなければいけないか。それは、朝起きたとき今日を楽しみにし、夜寝るときに明日を楽しみにするべきだから。今日も明日も楽しみにする人が、内側からも外側からも生き生きと輝ける。それこそが圧倒的な「人間の美しさ」だからなのである。




MAQUIA 5月号

撮影/柴田フミコ ヘア&メイク/中野明海 スタイリスト/小川夢乃 モデル/マツイハルナ 取材・文/真島絵麻里 構成/火箱奈央(MAQUIA)

MAQUIA書影

MAQUIA2024年4月22日発売号

集英社の美容雑誌「MAQUIA(マキア)」を無料で試し読みできます。6月号の特集や付録情報をチェックして、早速雑誌を購入しよう!

ネット書店での購入

share