創刊20周年を記念したスペシャル連載の第2回にご登場頂くのは作家の綿矢りささん。20年以上にわたり執筆を続けている彼女の創作活動における原動力や、“美しさ”に向ける眼差しに迫ります。
作家
綿矢りさ
1984年生まれ、京都府出身。2001年に『インストール』で文藝賞を受賞し、作家デビュー。2004年に『蹴りたい背中』で芥川賞、2012年に『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞。『勝手にふるえてろ』『ひらいて』など、映像化された作品も多数。
MAQUIA20周年記念連載
「明日の私をMAKEしよう」#2
綿矢りさ、楽しんでるっていい
頭に浮かぶ場面を言葉で紡いでいく作業が好き
本連載のテーマは『明日の私をMAKEしよう』。自身の創作の世界を20年以上MAKEしてきた綿矢さんに、その原動力を尋ねてみた。
「頭に浮かんだ場面を言葉にしたいという思いが、私が小説を書く理由。この情景を文字にしたらどうなるんだろう、と考えるのがすごく好きなんですよね。編み物にも少し似ていて、“こんな毛糸があるから編んでみよう”と作業を始め、いつしかセーターみたいなものが出来上がる。作っている時は集中できて楽しいし、出来上がったらみんなに見てもらえて楽しい……そんな繰り返しが細々と続いている感覚なんです」
とはいえ、20代の頃は小説が書けなくなった時期もあったという。
「小説のネタ探しで旅行や人間観察をしたことも。でも私は書くことに対してわがままなところがあり、結局自然に任せるしかないんですよね。今は。“書きたいことがいつなくなるかはわからんけど、多分大丈夫やろう”という気持ちでいます」
そんな綿矢さんが、長年執筆を続ける中で発見したことがあるそう。
「当初は畏まった文章を書いていたけれど、声が聞こえてこない気がしてかなり崩してみたんです。それでも意外と読んでもらえて、日本語の柔軟性に改めて気づきました。同時に、“ここまで人間の醜い感情を書いても読んでくれるんや”と読者の方の受け止める力にも全幅の信頼を置くように。文章に関しては、調子に乗って崩しすぎて校閲の方にビシバシ怒られ、正気を取り戻す……という時もわりとありますが(笑)」
執筆活動を続けていく中で日本語の柔軟性に改めて気づいた
頭でっかちになりすぎず生活の手触りも大切に
作家として活躍する一方で、日常生活では出産や育児を経験。これまでの時間を振り返り、自身の変化を感じる点は?
「昔の自分は、今とは別人のようにはにかみ屋だったと思います。今はいろんなことがどうでもよくなってきて、昔ほど些細なことに気づかなくなった気が。とはいえ、自分と一緒に小説の主人公の年齢も上がっているので、そういった変化を登場人物に投影することもあります」
変化を実感する中、年齢を重ねること自体はどう受け止めているのだろうか。
「創作に関して言うと、成長しつつも失っている……みたいな感覚があるんです。ただ自分の実感と読む人の意見が違うこともあるので、把握しきれない部分も。人間としては失っていくものの方が目に付きやすいけれど、やっぱりそうではなくて。昔に比べると精神的に得ているものがたくさんあると思っています」
最後に、今後どのように年齢を重ねていきたいかを尋ねると、意外な答えが。
「流れに抗わず、その中で楽しいことを見つけて実践していきたい。私は欲望の塊みたいなところがあって、流行りのメイクやファッション、食べ物なんかをチェックするのがすごく好きなんです。そういったものって、深刻な問題をも忘れさせてくれるパワーがあるんですよね。“自分とは何か?”とか考えるよりも“明日どんな服着よう”と考えることの方が、実際の生活に根ざしている分、実は大切なんじゃないかなと本気で思うことも。もうダメだと思うくらい悩んでいても、ふと鏡をのぞいたら“意外と元気そうだな”と思ったりもするので、あまり頭でっかちにならずに現実的な生活の手触りも大事にしていきたいですね」
待望の新刊!
『パッキパキ北京』
時はコロナ禍。北京に単身赴任している夫の元にやってきた元銀座の高級クラブ嬢・菖蒲の目まぐるしくもパワー溢れる駐妻ライフを疾走感のある文章で描いた傑作。¥1595 綿矢りさ著 集英社
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MAQUIA 6月号
撮影/花盛友里 ヘア&メイク/KUBOKI〈aosora〉 スタイリスト/平田雅子 取材・文/真島絵麻里 企画・構成/横山由佳(MAQUIA)
トップス¥58300、スカート¥88000/KEIKO NISHIYAMA サンダル¥11900/CHARLES & KEITH JAPAN(CHARLES & KEITH) ピアス¥170500、バングル¥693000/CA JITSU(Ted Muehling) リング¥13200/ロードス(YArKA)
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