MAQUIA 緊張とつきあう方法

初対面の人と話をしたり、会議でプレゼンをしたり、スポーツの試合に出場したり。
絶対失敗したくないときに限って邪魔しに来る“緊張”を、味方につけるには?
心に余裕を持ってよりよいパフォーマンスを発揮するために、精神科医と心理カウンセラーが緊張のメカニズムと対処法を解説。アスリートやアイドルの緊張対処法もお伝えします。

「緊張」について教えてくださったのは……
Tomy先生

精神科医

Tomy先生

SNS上で発信し続けている、気持ちが楽になるひと言が人気。眠れない夜に寄り添ってくれる物語を集めた新作『精神科医Tomyの心の不安を取り除いて、寝る前に気持ちをスッキリさせる魔法の言葉』(エムディエヌコーポレーション刊)など著書多数。幸せになるためのヒントを短編小説の中にちりばめた、傑作がそろう。

池内秀行さん

プロカウンセラー

池内秀行さん

公認心理師、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント。個人やカップル、家族の間に起こる問題をカウンセリングするほか、ウェルビーイングを実現していくカウンセリング、組織開発プロセスコンサルティングやストレス軽減などの企業研修も行う。穏やかな人柄がにじみ出ていて、相対すると、いろんなことを聞いて欲しくなる。

まずは緊張についての疑問を解消!

Q.そもそも緊張とは
A.交感神経のスイッチが入った状態


「緊張と言うと、みなさん“こころ”の問題だと思うかもしれません。でも実際、緊張しているのは身体の方です。緊張とは、良くも悪くも物事や出来事に対処するための生理学的な“身体のストレス反応”によって生じるもの。具体的に言うと、自律神経のうち交感神経が優位になっている状態を指します。こころの面では、先が予測できることに対して好奇心や探究心、向上心が湧いてきます。一方予測できないことに対しては心配、不安、恐れなどの感情を抱きます。 遠足前のワクワクと、テストの前のドキドキ、思い返すとすごく似ていませんか? それは“こころ”の捉え方が異なるだけで、身体の中では、どちらも交感神経が優位になるストレス反応が起きているからなんです」(池内さん)



「“緊張”に医学的な定義はありません。しかしながら身体に起こっている現象としては、交感神経が優位になった状態、と言えるでしょう。人間の身体は、何かすごく頑張らなくてはいけないとき、あるいは危機的状況に陥ったときなど、交感神経を優位にすることで身体のパフォーマンスを上げようとします。大事なイベントに際して気合いが入った結果、交感神経が優位になったことを“緊張”と認識しているのです」(Tomy先生)


Q緊張をするとどんな症状が出る?
A心拍数が上がる、汗をかく、体がこわばる、など


“症状”だと病気に伴う現象なのでちょっと意味が異なりますが、交感神経が優位になると、心拍数が上がって動悸がする、汗をかく、筋肉に力が入ってこわばるなどさまざまな現象が起こります。あとは消化器官がストップするので食欲がなくなったり、眠気が吹き飛んだりもします」(Tomy先生)



Q.緊張を味方につけるには?
A.緊張は悪いものではない、と知っておきましょう


大事な出来事の前に緊張するのは、悪いことではありません。緊張は身体の自然な反応なので、良し悪しはないのです。緊張=交感神経が優位になるということは、物事に対処するためのエネルギーがつくられているということ。そのエネルギーをうまく使う方法を見出せれば、緊張を味方にすることができるようになっていきます。これからお教えする“緊張に対処する方法”を入り口に、自分の緊張とのつき合い方を確立していくと、むしろ緊張を味方にして、いつも以上の成果を発揮できるようになっていくことも可能です」(池内さん)



緊張に対処する方法

1.緊張していることに気づく

MAQUIA 緊張とのつきあい方

「緊張を味方にする秘訣としてまず大切なのは、いつもの自分と違うと思ったら、”自分の身体が緊張している”ことに気づくこと。続いて、“身体がいつでも物事や出来事に対処出来るようスタンバイしてくれている”と認識することです。緊張に気づいて身体に意識を向けると、身体は緊張を緩める方向にシフトしていきます。こころで“緊張しているから失敗してしまう”と思っても大丈夫。一呼吸おいて、自分のこころの中で “自分の身体は結果を出そうと準備を整えている”、“結果を出すために今の自分のベストを尽くせばいいんだ”と目的を再確認してみてください。そうすれば、前向きな気持ちに切り替えやすくなります。身体の緊張に気づいて緩めることを優先する、目的を再確認する、これを意識的に出来るようになってくると、だんだん固まるような緊張状態になりにくくなっていきます」(池内さん)

「自分が緊張していることに気がつけば、それだけで考え方を切り替えるのが簡単になります。おすすめは、行動を変えること。緊張してるな、と思ったら違う部屋へ移動する、周りを掃除してみる、など別のことをするだけで気が楽になります。失敗したらどうしよう、とかクヨクヨ考えてしまうのは、頭が暇な証拠。行動を変えて頭を別のことで満たせば、考え込むのをストップできるのです」(Tomy先生)

2.エネルギーを調整する

MAQUIA 緊張とのつきあい方

緊張しても失敗しないようにするには、交感神経優位でつくり出されたエネルギーを上手に調整して、使っていく必要があります。エネルギーをうまく調整できないと、行き場を失ったエネルギーによって身体が固まり、体がこわばって口ごもる、手が震えるなどの状況に陥ります。でも、そうなっても大丈夫。脚を動かして移動する、背伸びする、ゆっくりした動きの軽いストレッチをするなど、四肢を使って身体を動かし、少しずつエネルギーを発散すれば、適度なエネルギー状態に調整することができます。エネルギーを上手に使えるようになるには、目的に沿った練習が重要。スポーツの試合でもプレゼンでも、練習することで事前にエネルギーの調整の仕方と使い方を把握しておきましょう」(池内さん)

3.緊張する出来事に対して見通しをつける

MAQUIA 緊張とのつきあい方

「緊張は、先が見えないことに対して起こります。練習することで流れを掴んでおくと先が見通せるようになり、安心できるはず。もちろん本番では、練習したとおりに物事が運ぶわけではありません。そこは場数を踏めば、起こりうるエラーも予測して、先を見通せるようになるでしょう」(Tomy先生)


緊張し過ぎないようにするには、物事や出来事の先をある程度予測しておくことが大切。そのためには事前に調べておいたり、経験者に体験談を聞いておくことをおすすめします。何か突発的なことが起きてもとっさに対処できるよう、相談相手や協力してくれる人を見つけておくこともよいですね。心配や不安を感じていても、頼っていい人がいると、”心配だけど大丈夫“という気持ちで臨めるので、必要以上に緊張しなくなることもよくあるからです」(池内さん)

4.緊張していることを周りに伝えておく

MAQUIA 緊張とのつきあい方

緊張すると口ごもってしまう、お腹が痛くなってしまうという人は、あらかじめ周囲の人に、“ときどきそうなるんだ”と軽く知らせておくとよいですね。そうすれば、たとえばプレゼンの途中でお腹が痛くなっても、ひと言断って席を立つのが気楽になります。うまく口が動かなくなってきたら5秒くらい間を置いてお水を飲んで一息入れることもおすすめ。まわりは“ああ、緊張しているのね、でも大丈夫そう”と分かってくれるでしょうし、その間をさらっと入れられると、むしろ程よい緊張感が伝わってかっこよく見えるかもしれません」(池内さん)

5.帰れる場所をつくっておく

MAQUIA 緊張とのつきあい方

何か緊張するイベントの前には、仲間や友人、家族などに“今度~~するんだ”と話しておいて、応援してもらうのもよいですね。もしかしたら、何かアドバイスをもらえるかもしれません。また、応援してくれている人がいる、イベントが終わったあと受け止めてくれる人、一緒に喜んでくれる人が待っていると思えるだけで、当日心が楽になることもよくあります。仲間や友人、家族の他に、相談しているカウンセラーがいれば、その中に加えてもらっても大丈夫ですよ」(池内さん)

6.体を休ませる

MAQUIA 緊張とのつきあい方

「緊張し続けていると感じたら、自律神経のスイッチを副交感神経に傾けましょう。パートナーやペットとスキンシップを取る、心地よい温度のシャワーを浴びる、甘い物を食べる、それだけでOKです。プラス、休みを取って体を休めることも大切。体が緩めば、心もリラックスして緊張が気にならなくなるはずです」(Tomy先生)


「ずっと緊張していて交感神経が優位になり続けると、そのうち体が疲れて参ってしまいます。そんなときでも“自分が緊張している”と気づくだけで体は緩む方向に向かってくれます。また、緊張が慢性化したときは生活のリズムを変えるのも有効。仕事や練習の合間にちょっと温かいお茶を飲む、いつもデスクで食べているランチの場所を変えるだけでも、休息につながります。旅行へいくなら、3泊4日は取りたいですね。1泊2日だと却って慌ただしく、心も体もリラックスできません」(池内さん)

緊張する大舞台に立つあの人の対処法は?

1.トップアスリート皆川夏穂さんのパフォーマンス向上術

皆川夏穂さん

イオン新体操クラブコーチ

皆川夏穂さん

元新体操個人日本代表選手。2016年、リオデジャネイロオリンピック出場。2017年、世界選手権種目別フープ銅メダル、個人総合5位入賞。現在はコーチとして選手を育成し、新体操の美しさや楽しさを、ひとりでも多くの人に広めるべく活動中。

緊張できるのは幸せなこと!?

【今日からできる、緊張と付き合う方法7選】精神科医Tomyさん・プロカウンセラー池内秀行さんが解説! 元新体操個人日本代表・皆川夏穂さん、アンジュルム・上國料萌衣さん、コスメデコルテPR・吉成里沙さんの緊張対処法も_8

現役時代、試合前は自分でも気がつかないうちに不安などが心に溜まり、練習ではうまくできていた技に、失敗することもあったという皆川さん。
「入場する方向を間違えたり、スタートポーズの場所を間違えたこともあるし、転倒や落下など大きなミスを連発してしまった苦い思い出もあります」。



それでも素晴らしい成績を収めることができたのは、気持ちを切り替える強さを育んでいたから。
不安や緊張のことを考えるのではなく、その場にいられること、経験できることがどれだけありがたいか、と考えるようにしていました。そうすると、精一杯やろうという気持ちになって、落ち着くことが出来たんです。自分をサポートしてくれるみんなのためにも、最大限の努力をしようと。緊張するとマイナスな気持ちが強くなりがちですが、そういうときこそ今やるべきこと、できることは何かと冷静に考えることが大切だと思います」

コーチとして伝えたい緊張とのつき合い方

指導者として選手に伝えたいのは、やっぱり緊張=よいこと、という事実。
緊張は悪いものではなく、よいパフォーマンスにつながるんだ、と体感することが大切です。そのためにも試合を想定した練習をして、予想外のことに対処する方法や、どんな精神状態をつくればよいかを、理解することが必要です。そうすれば緊張感の中でもよいパフォーマンスができるようになって、失敗することが減るはず。緊張を恐れてビクビクしながら試合をするのではなく、練習を頑張ってきてよかった、この場に立てて嬉しい、とポジティブな感情を持って試合を迎えられる選手が増えるよう、サポートしていきたいです」

2.ライブで輝くためにアンジュルム 上國料萌衣さんが心がけること

1999年10月24日生まれ。「ハロー!プロジェクト」所属のアイドルグループ「アンジュルム」のメンバー。2023年3月22日にニューアルバム『BIG LOVE』をリリース。現在、全国各地で「ANGERME CONCERT TOUR『BIG LOVE』」開催中。詳しくはオフィシャルHPをチェック!

頭をテトリスでいっぱいにして緊張を追い出す!

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緊張するとソワソワして人の話が頭に入ってこないという上國料さんには、初ライブでの失敗エピソードが。
「緊張のあまりステージでの立ち位置を思い切り間違え、他のメンバーが歌ってカメラに抜かれているところを、横切ってしまいました。恥ずかしい…。緊張するイベントの前は、そのことを考えるほど緊張が増します。なのでギリギリまで人と話したり食事をしたり、ゲームをしたり本を読んだりして、考えない時間を作るようにしています。ちなみにテトリスは、頭の中がブロックだけになるのですごくおすすめ(笑)。あとは、当日の流れを事前にできるだけ確認しておくと、安心して緊張が和らぎます」

3.人気コスメブランドを背負う吉成里沙さんのスピーチ法

コスメデコルテ PRマネージャー

吉成里沙さん

皮膚科学に基づいた成分開発と、心に働きかけるラグジュアリーなテクスチャーや香りを両立するブランド・コスメデコルテのPRを務める。新製品発表会で大勢のプレスを前に話をしたり、媒体のインタビューでコスメの使い方などを提案することも。

大切なのは自分ではなく相手であると気づく

【今日からできる、緊張と付き合う方法7選】精神科医Tomyさん・プロカウンセラー池内秀行さんが解説! 元新体操個人日本代表・皆川夏穂さん、アンジュルム・上國料萌衣さん、コスメデコルテPR・吉成里沙さんの緊張対処法も_10

大きな会場のステージに立ってスポットライトを浴び、マイクを通して話をする。吉成さんはそんなシチュエーションをいくつも乗り越え、そのたびに少しずつ緊張を克服する術を身につけてきたという。
「今でもお話したい内容が頭から飛んでしまったり、手や声が震えてしまうことがあります。でも、それって私が自分のことだけにフォーカスしているからなんですよね。自分がうまく話せているか、自分がどう見えているのかよりも、大切なのはみなさんが理解してくださっているか、心地よく過ごせているかということ。そう思ってゲストの反応を窺いながらお話すると、意外と緊張しないことが分かったんです」。
これは以前、プレゼンや司会が上手な先輩からもアドバイスされたこと。
“誰もあなたが緊張することを望んでいないし、そこまで他人のことを見ていない、と思うように”と教えてもらって、本当にその通り。緊張して困る、という人は、ぜひ頭を切り替えてみてください」


イラスト/田中麻里子 取材・文/風間裕美子 企画・構成/横山由佳(MAQUIA)

最終更新日:

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