毎回、社会現象になるほど注目を集めているパンテーンの「#HairWeGo」キャンペーン。「MAQUIA」2月号では、その仕掛け人であるキーパーソンに、その真意をたっぷり伺いました。
インタビュー歴25年 マキア編集長・伊藤責任編集
最新美容の真相、ズバリ聞いトク!?
イトーーク
マキア編集長
伊藤かおり
non-no、MORE編集部を経て’08年からマキアへ。入社以来人物インタビューを中心に取材してきた経験を活かし、“美容=人生”を誌面づくりのモットーに。
P&G インターナショナル オペレーションズ シンガポール
APAC ヘアケア フォーカス・マーケット シニア ブランド ディレクター
大倉佳晃さん
2008年P&G Japan入社。2011年よりシンガポールに着任し、h&s、SK-IIなど複数のメガブランドを担当。現在は、日本のヘアケア事業部全体のマーケティングを統括している。
ありのままの姿でチャレンジできる社会に
伊藤 2018年からスタートした「#HairWeGoさあ、この髪でいこう。」では、髪を自分らしさを表現するものと捉え、これまでさまざまな視点で、私らしい髪を愛する喜びや、誰もが感じている一種の違和感もクローズアップされてきましたね。毎回多くの気づきがありますが、商品と直接リンクさせるわけではありません。ヘアケアブランドであるパンテーンがこのようなキャンペーンを展開しているのはなぜですか?
大倉 1945年に誕生したパンテーンは「美しい髪によって、女性が一歩前に踏み出す勇気を与える」ことをフィロソフィーに、常に女性の飛躍を後押しするブランドであり続けたいと考えており、その一環としてこのキャンペーンを2年前に開始しました。日本における就職活動は画一的で、無個性や没個性などと表現されることも少なくありません。実際に就職活動生に調査を実施してみると、81%が「企業に合わせて自分を偽った経験がある」と。これを受け、パンテーンは“現代の就活生が、ありのままの姿で、自分らしく就職活動ができること”を「#就活をもっと自由に」というハッシュタグに思いを込め、キャンペーンを実施することにしました。
伊藤 テーマを決められたのは大倉さんだったんですよね。就活生にフォーカスしたのはなぜなのですか?
大倉 個人的な思いがありまして。私は13年ほど前に就職活動をしたのですが、以前から個性的なファッションやヘアスタイルが好きだったんです。就職活動を行う際に、髪型の規制がない会社でもやはり見た目が影響することを肌で感じました。最終的にP&Gは、それらを含めた個性を受け入れてくれましたが。その後、シンガポールに異動して日本を離れてみると、日本独自の固定観念をより実感するようになりました。
伊藤 海外から見ると、日本の就活スタイルは特殊ですか?
大倉 私はシンガポールでは採用面接も担当していますが、人種もさまざまですし、肌の色はもちろん、髪色も服装も同じということはありません。
伊藤 第3弾の髪型校則は、私も学生時代に感じていたことです。みな同じ制服だからこそ、髪はその人の個性を表すもののはずなのに、それを否定されると悲しくなってしまう。
大倉 それが生まれ持ってのものだったら一層その思いが強くなりますよね。
伊藤 このキャンペーンでは校則を守らせる立場の先生方の意見もヒアリングされていましたね?
大倉 結局、先生方も悪気があるのではなく、ルールだからという理由で行っているだけだったりして。でも、そのことに気づくと議論が生まれる。それが目的です。就活においても、スーツや黒髪を否定するわけではないんです。「そうでないこと」を選ぶ自由についても考えてみようよ、と。
伊藤「#HairWeGo」のキャンペーンは、今後も続いていくのですか?
大倉 テーマは変えるかもしれませんが、続ける予定です。こういったことは1回だけの打ち上げ花火のようにやるのはダメで、一貫してやり続けることが大切だと思っています。“自分らしさを出せない”という悩みは全就活生に当てはまりますが、特にLGBTQ+の方々は、もっと困難に直面することを目の当たりにしたのが、2020年10月の第6弾を作るきっかけです。当事者の方々にお話を伺うと、身近にロールモデルがいないためどうしていいのかわからない、と口を揃えておっしゃる。そこで、トランスジェンダーの元就活生のお二人にご出演いただき、動画を作成しました。
伊藤 反響はいかがでしたか?
大倉 再生回数は一千万回を超え、数字以上に挙がってくるコメントを見ていると「やってよかった」と思いました。何より、LGBTQ+の当事者でない方々からも、「こうした問題があることを知れてよかった」という声をたくさん頂戴しました。
伊藤 まさに“気づき”ですね。コピーになっている「この髪が私です。」は、このお二人自身の言葉ですか?
大倉 そうです。動画ではお二人がリアルな言葉を紡いでくれています。
伊藤 一連のキャンペーンのテーマである「髪は自分を語るもの」というメッセージに私たちは感銘を受けるのでしょうね。CMやポスターに商品が出ていなくても、店頭でパンテーンを目にしたときにこのメッセージを思い出し、商品を手に取るきっかけにもなりそうです。
大倉 そうですね。世界的に見ても、今の消費者は国や政府ではなく、メーカーに社会が抱える問題を解決することを望んでいる傾向があります。これができるのは、我々グローバルブランドの強みだと思っています。
これまでの#HairWeGoキャンペーン
第1弾 1000人の就活生のホンネ
就職活動生のリアルな声から、ありのままの姿を後押しするキャンペーン。2018年に“1000人の就職活動のホンネ”としてスタート。
第2弾 The Hairy Tale
ありのままの自分を愛する喜びについて。グレイヘアの近藤サトさんと、爆毛赤ちゃんことbabychancoがコラボレーション。
第3弾 #この髪どうしてダメですか
「髪型校則」について先生と生徒の対話をきっかけに、社会全体で学生の個性の尊重について考える広告キャンペーンを展開。
第6弾はLGBTQ+の
元就活生と考える
自分を偽らない就活
「髪は、自分のアイデンティティだった」。二人のトランスジェンダーの元就活生の体験談をもとに、自分を偽らずに、自分らしさを表現できる就職活動について考える「#PrideHair」プロジェクト。
自分を偽らず、自分らしさを表現する手助けに
伊藤 今は“何となくよさそう”だけでは、見向きもされない。そこにテクノロジーなり、ブランド哲学なり、独自のストーリーがないと響かないですよね。いまや美容は、自分さえキレイになれればハッピー!ではなく、自分を取り巻く社会まで美しくできるかどうかが求められるようになってきました。
大倉 それはありますね。10年前に比べると、その変化はひしひしと感じます。ジェンダーフリーの美容ツールもずいぶん登場するようになりましたし。
伊藤 人生100年時代。長い人生、自分らしさを見つけられたら幸せ。自分自身で自分のいいところを見つけ、それを育てて胸を張れたほうがいい。それをサポートしてくれるのが今の美容の醍醐味だという気がします。ちなみに、次回作の構想はありますか?
大倉 先ほどもお話がありましたが、日本独自の同調圧力とか?自分らしさとパンテーンのブランド理念をうまく表現できるものを考えています。
伊藤 一人一人の個性が受け入れられ、あらゆる無意味な偏見の目がなくなるといいな、と切に願います。
ストレスフリーは製品にも!
天気によって引き起こされるパサつきや広がり、うねりを解消するお天気トリートメントシリーズ。「私の剛毛も聞き分けよく!」(伊藤)。(右)パンテーン ウェザー プルーフ トリートメント 160g ¥1000(編集部調べ)、(左)パンテーン リペアー ゴールデン カプセル ミルク 90g ¥1280(編集部調べ)/P&G
今後の大倉さんの髪型計画は?
「最近は落ち着いていますね。あっ、私のこの写真は金髪ですね。このキャンペーンを受け持つ際に、『パンテーンの担当者が普通のヘアスタイルだとつまらないよね』という思いがあって(笑)。最近は久しく髪を伸ばしていないので、ロン毛とは言いませんが、伸ばしてみようかなと思います。金髪はもちろん、いろいろな髪型を楽しみたいですね」
MAQUIA 2月号
取材・文/藤井優美〈dis-moi〉
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