美しくなることは、人生を変える──マキア誕生に込めた思い、そして今、再び注目される「美容」と「心」の親和性、マキア独自のエモーショナルな誌面づくりの源について栗田創刊編集長に話を聞いた。
マキア創刊20周年に寄せて
すべては『うっとり』から始まった。
マキアが追い求める自分軸の美容とは
マキア創刊編集長
栗田富美子
シュプール副編集長、ノンノ編集長、バイラ編集長を歴任した後、2004年マキア創刊編集長に。集英社を定年退職後は女子大にて教鞭を執る。現在はフリーにて活躍。
マキアブランド統括編集長
伊藤かおり
ノンノ、モア編集部を経て2008年にマキア編集部に。2019年から編集長を務める。モットーは「美容=人生」。栗田は、ノンノ新人時代の編集長。
撮影/富永よしえ
きれいという運命は自分で作る。そんな「自分の中の力を、もっともっと磨きたい」と思っている女性たちのためのビューティ誌「MAQUIA(マキア)」が創刊になります。──そんな言葉とともに深津絵里さんが表紙を飾った創刊号。「凛とした美しさがあり、ファッショナブルで女性からも憧れられる存在。深津さんはマキアが目指す理想像そのものでした」(栗田)
美力と知力。
心まで美しくなる
雑誌を作りたかった
伊藤 ある日、突如マキアの創刊準備室が会社の片隅にできたことを今でも鮮明に覚えています。
栗田 当時私はバイラの編集長でコレクション取材でミラノに出張中に上司から電話がかかってきて「美容雑誌を創刊する。君が編集長に任命された」と。それから2日後に会社に戻ったら、窓もない小部屋で創刊メンバー4人が心細そうに私の帰国を待っていて。それから9月の創刊まではまさに怒涛の日々。雑誌名を決めることから、コンセプト決め、エディターやデザイナー、整理・校閲スタッフのリクルーティングに至るまで全てゼロから。その前に新雑誌がどういうものかを説明するクライアントに向けた媒体説明会が既に1カ月後に決まっていて。ハードすぎて、創刊までの記憶は何もないです(笑)。
伊藤 想像するだけで震えます。集英社としては初の美容専門誌で、『VOCE』『美的』に次いで3誌目。栗田さんの中にはどんな構想があったのでしょうか?
栗田 私自身、ノンノ、シュプール、バイラとファッション一筋だったので美容は全くの門外漢。けれどバイラで美容を特集した「美バイラ」という別冊付録の反響が大きくて。当時のバイラは25歳くらいから32、33歳くらいがメイン読者だったのですが、その人たちに一番刺さるコンテンツがビューティだったのね。それで、バイラと同じ世代の人たちが読める、コスメフリークのための専門誌でもなく、若い世代のための教科書的な雑誌でもなく、集英社らしいファッション性や上質感のある美容雑誌を作りたいと。美容というとここ(首)から上の世界だったのを、全身で見ての美しさや、顔だけじゃなく心まですべて、内面も外面も美しくなれる雑誌にしたい、というのは最初から決めていました。
伊藤 創刊時のキーワードは「うっとり」でした。
栗田 当時「モテ」が大ブームで、男性雑誌もイケオジ的な、いかにして異性にモテるかが主流だったんだけど、創刊メンバー全員、モテを意識して雑誌を作った経験がある人が誰もいなかった(笑)。
伊藤 ああ〜。よくわかります。
栗田 それが集英社DNAなのかもしれないけれど、自分自身が美しくなることによって幸せになったりとか、生きやすくなったりとか。自分を磨いてステップアップできる、そんな言葉をキーワードにしたいね、っていう話をして、一人百個ずつアイデアを持ち寄って会議して。3日目くらいにはまず「うっとり感」という言葉が出てきていました。
伊藤 マキアの「自分軸」な美容は最初からあったのですね。
栗田 あくまでも主役は自分。ファッションなら自分が納得する着こなしで自分を表現するということ。ファッションは当時から多様性があるといえばあったかもしれないけれど、美容に関しては「自分を貫く」というムーブメントはまだなかったような気がします。やっぱり相手あってのメイクであり、上司は男性が多くて、仕事を頑張りながらも生き抜くためには男性にとってわかりやすい女らしさを身につけないと、と賢い女性たちは思ったと思う。その賢さを全面に出してしまうとギスギスした人に見られてしまうのかもしれないけれど、美しさの中にしなやかな知性も併せもった読者に向けて「美力と知力」という言葉を用いて特集を組み、浅田次郎さん、幸田真音さん、筒井ともみさんに連載をお願いしたのもマキアならではだったと思います。
伊藤 当時美容おたくでは全くなかった私が毎号マキアを楽しく読んでいたのは、美容をベースにしたヒューマン誌だったからかもしれません。
栗田 ヒューマンですよ、美容は。私ね、美容という言葉が嫌いなの。私が編集長だった間はほとんどタイトルに使っていなかったと思う。ビューティっていう入口からは、いくらでも広がっていくんだけど、美容っていうとやっぱりここ(首)から上の世界に限定されちゃうから。
伊藤 栗田さん時代の誌面には「そのとき、心は肌になる」や「女は肌で生きていく」など。「肌」と「心」「生き方」をリンクさせるタイトルが多いのも印象的です。
栗田 肌って、単なるスキンケア的なことだけではなくて自分自身を表すものだったり、それこそその人の知性や個性まで体現すると思ったから。そういう意味で、ビューティって教養のひとつであり、生きていく上での知恵でもある。最近のMEGUMIさんの著書『心に効く美容』というタイトルも「わかってらっしゃる!」と思ったけれど、心とビューティは直結していますね。マキアは99・9%美容の内容だから、ファッション誌でも美容特集が占める割合が多くなった今、単に美容のTIPSだけではなく、人間や心の問題を取り上げることで美容雑誌だからこその奥行きと深みが生まれると思います。
伊藤 さまざまなコスメに触れ美容に携わる方にお会いし、そして私自身の経験からも、美容のエモーショナルな側面に最も心惹かれます。
栗田 先日行った『CLAMP展』でもさまざまな名作漫画の中のフレーズを展示したコーナーで若い人たちが立ち止まって見入っていて、涙を流している子もいたけれど、今再び「言葉」の時代がきているのを感じました。ビューティが好きな人って心に響く言葉が好きな人が多い。ベストコスメの選者の方々のコメントにしてもそう。創刊号からマキアエディターが新作コスメを試す「コスメカレンダー」連載がありますが、エディター自身の言葉で製品の特長を発信するのもそう。美容を言葉にできない人はビューティエディターとしては大成しませんよ。これからの時代を生きる人の心に訴える美容・ビューティをどうやって作っていくのか。マキアにはそれを期待したいかな。
伊藤 はい、肝に銘じます。
栗田 美しくなるためとか、綺麗になるためだけに美容を頑張っても視野が狭くなってしまう。けれど、美容をすることで人生が少しでも生きやすくなったり、自分を認められて好きになれたら、もっと幸せに生きられるじゃない? 美容の本質は、幸せに生きること、そして人生につながる。それが、20年前にマキアに込めた思いです。
「美容」とはあえて使わなかった。
“意味が狭い”言葉だから
新雑誌のコンセプトやタイトル案、競合誌比較などがびっしりと書き込まれた栗田の当時の手帳。最初の数ページ目には「うっとり」というワードが登場している。
クライアントに向けた媒体説明資料。「普通は読者ターゲットの属性や年齢を最初に打ち出すけれど【うっとり】を1番目に掲げることにもこだわりました」(栗田)。【マキア発信基地】(マキアサロン)【作り手の顔】(マキアエディター)といった現在のマキアに受け継がれているオリジナリティも既に見受けられる。
美容の本質は、幸せに生きること
MAQUIA 11月号
撮影/土佐麻理子 構成・文/伊藤かおり(MAQUIA)