夜、寝ているときに歯を食いしばったり、歯ぎしりをしたりして、安眠できないという悩みを抱えている人が実は多いのでは? 歯の食いしばり癖があると、途中で目が覚めてしまうだけでなく、寝ても疲れがとれなかったり、歯がすり減ってしまったりと、デメリットがいっぱい。そこで自分で簡単にできる食いしばり改善エクササイズや、ボトックス注射、マキアインフルエンサーが実践している食いしばり改善法をご紹介。食いしばりを少しでも緩和するための参考に!
- 睡眠中の食いしばりの原因は? どんなトラブルが起きる?
- 実は隠れ食いしばり? セルフチェック!
- 食いしばりを改善する方法は?
- 改善法1. 「ボトックス注射」
- 改善法2. 「マウスピース」
- 改善法3. 寝る前の「噛みトレ」で予防
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食いしばり歴10年
リアルに悩む編集長がボトックス注射を試してみた! - 【体験談】マキアインフルエンサーの食いしばり改善法
睡眠中の食いしばりの原因は? どんなトラブルが起きる?
東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニック院長。丁寧な診療と的確な治療が話題を呼び、予約の取りにくい人気クリニックに。2019年に、日本の医師の中で0.6%しか選ばれないとされるベストドクターに歯科口腔外科医(歯科医師)として選出される。著書に『歯と歯ぐきを強くする 噛みトレ』(アスコム)などがある。
Q.食いしばりの原因は?
A.TCH(Tooth Contacting of Habit=歯列接触癖)と呼ばれる癖が大きな原因
「TCHとは、上下の歯を長い時間接触させる癖のことをいいます。本来、口を閉じているときは上の歯と下の歯は触れておらず、2~3ミリ程すき間が空いているのが正しい状態なのですが、TCHがある人は口を閉じているときに長い時間、上下の歯が接触しています。通常、上下の歯が接触している時間は1日17分程度なのですが、TCHの人はそれより長く、1日に数時間も接触していることも。これが食いしばりです。上下の歯が接触していると、歯の根を覆う歯根膜という部分に微細な電流が走り、これは脳にストレスとして伝わります。このストレスが常態化すると、寝ている間にも食いしばるようになりますが、寝ているときは力加減ができないので、起きているときの5〜8倍もの強さで食いしばってしまいます。ですから体への負担が大きくなってしまうのです。TCHの原因ははっきりとはわかっていませんが、精神的なストレスが関係しているといわれています。また、パソコンに向かっているときのような何かに集中しているときや、頬杖をついているときも食いしばりやすいので要注意です」(新谷先生)
Q.食いしばり癖があると、どのようなトラブルが起きる?
A.睡眠障害や頭痛、肩こりなどの原因に
「睡眠中に食いしばっていると、途中で目覚めやすくなるので睡眠障害が起きたり、歯が割れたり、傷んでしまったり、知覚過敏が起きやすくなったりします。また、頭痛や肩こり、首こりをまねいたり、顎関節症の原因になることも。さらに噛むときに使われる咬筋が発達してエラが張ってしまい、顔が大きく見えるようになるというデメリットもあります」(新谷先生)
実は隠れ食いしばり? セルフチェック!
寝ているときに食いしばっていても自覚症状がない場合も。以下の項目に多く当てはまる人は食いしばっている可能性大。自分でチェックしてみて!
□舌の横の先に凹み(歯を押し付けた跡)がある
□朝起きたときに口の周辺が疲れている、顎のだるさを感じる
□自分の食いしばりや歯ぎしりで夜中に起きたことがある
□歯や詰め物がすり減っている。または割れたことがある
□歯の表面が真っ平らになっている
□知覚過敏がある
□頬のエラの近くの部分や、側頭部がカチカチに硬くなっている
□歯が割れる夢を見ることがある
□口を大きく開けようとすると顎が硬くて開けにくい
□顎がカクカクと鳴る
食いしばりを改善する方法は?
A.ボトックス注射、マウスピース、噛みトレ
「改善するには、3つの方法があります。1つめの方法が、ボトックス注射をして咬筋の過緊張を緩めることです。2つめは、睡眠中に歯が傷まないようにマウスピースを付けること。3つめは、食いしばりによって硬くなっている咬筋や側頭筋などの緊張を緩めるための“噛みトレ”をすることです」(新谷先生)
この3つの方法について、以下でさらに詳しくご紹介。
「そのほかに自分でできる対策としてしては、横向きに寝るとあごの位置が落ちてしまい、これを戻そうとして食いしばりや歯ぎしりをしやすいので、頭が沈み込むような深めの枕で、仰向けに寝るのがおすすめです」(新谷先生)
改善法1. 「ボトックス注射」
Q.ボトックス注射でなぜ食いしばりが改善するの?
A.噛むときに使われる咬筋の過緊張が緩むから
「ボトックス注射とは、ボツリヌス菌から精製した蛋白(製剤)を注射する方法です。ボツリヌス菌には神経の末端組織の作用を抑え、神経から筋肉への命令伝達を阻害することで異常な筋肉運動を和らげたり、止めたりする作用があります。噛むときに使われる咬筋にボトックス注射をすると、咬筋の過緊張が取れて弛緩し、食いしばりが改善するのです」(新谷先生)
Q.ボトックス注射はどのくらいで効果が出る?
A.早ければその日から、一般的には3〜4日後
「効果は注射後その日から効果を感じることもありますし、一般的には3〜4日後、遅くとも1週間後には効果を感じると思います」(新谷先生)
Q.どれくらいの頻度で打つといい?
A.効果が切れる4〜6ヶ月後に再び打つ人が多いです
「ボトックス注射をすると4~6ヶ月程、歯ぎしりや食いしばりが軽減するので、効果がなくなった頃にまた注射する人が多いです。ただ、人によっては1回打っただけで食いしばり癖がそのまま改善されることもあります」(新谷先生)
Q.ボトックス注射を打つ場所は? 何ヶ所くらい打つ?
A.頬の咬筋のあたりに片側5ヶ所ほど打つのが一般的
「頬の噛むときに使われる咬筋のある部分に片側5ヶ所ほど注射をすることが多いです。食いしばり癖があると側頭部の側頭筋も緊張しやすくなりますが、この筋肉の緊張も強い場合には側頭筋に注射をすることもあります」(新谷先生)
Q.ボトックス注射を打った後は、ダウンタイムやあごが疲れる症状はある?
A.ダウンタイムや、注射後のあごの疲れはなし
「ダウンタイムはありません。また、打った後にあごが疲れることもありません」(新谷先生)
Q.妊娠中はボトックス注射を打てる? 打てない場合の改善方法は?
A.妊娠中はNG。マウスピースや“噛みトレ”などで改善を
「妊娠中はボトックス注射は打てないので、マウスピースや噛みトレなど、ほかの方法で食いしばりを抑えるのがおすすめです」(新谷先生)
Q.ボトックス製剤は韓国製、アメリカ製、ドイツ製などがあるようですが、効果に違いはある?
A.不純物の含有量などによって効果の持続力や安定性が異なります
「ボトックス製剤は、不純物の含有量によって効果の持続力や安定性が異なり、価格も違います。それぞれの特徴は、韓国製の『ナボタ(Nabota)』は、米国FDA・韓国KFDAによる安全基準をクリアしたもので、私のクリニックの場合は1回33000円なので費用対効果が高いボトックス製剤です。
また、アメリカ製の『ボトックス(Botox)』は、国内で唯一、厚生労働省で認可されているボトックス製剤です。不純なたんぱく質の含有量が多いと効果が出にくいことがありますが、こちらはたんぱく質の含有量が少ないので繰り返し注射をしても安心。1回55000円です。
また、最も不純物が少なく、高純度で長く効果が持続するとされているのがドイツ製の『ゼオミン(Xeomin)』や『ボクスチャー(Bocouture)』というボトックス製剤。効果が他のものより素早く出て、繰り返し使用しても効果が減らない最新型のボトックス製剤で、1回77000円です。ただし、クリニックによっては必ずしも種類を選べるわけではないので事前に確認をしてください」(新谷先生)
改善法2. 「マウスピース」
Q.マウスピースは食いしばりにどんな効果がある?
A.顎がリラックスして食いしばりや歯ぎしりの予防に。歯や詰め物が傷むのも防げる
「マウスピースを付けて寝ると、歯が横に滑って食いしばれないのであごがリラックスするうえ、歯や歯茎への負担が減り、歯や詰め物がすり減ったり、割れたりするのを防ぐことができます。ただし、硬い素材で作られたマウスピースでないとこの効果は得られません。柔らかい素材のものは効果が得られないので注意」(新谷先生)
Q.マウスピースもすり減ってしまう場合、どうしたらいいですか?
A.削れてきたら作り直せばOK
「食いしばりや歯ぎしりが強くてマウスピースがすり減ってしまうという人も少なくありません。ただし食いしばりや歯ぎしり対策用のマウスピースは保険がきき、4000円程度(3割負担の場合)で作れるので、削れてきたらまた作り直すのがおすすめです」(新谷先生)
改善法3. 寝る前の「噛みトレ」で予防
食いしばり癖でガチガチに硬くなった咬筋、側頭筋を緩めるのに効果的なのが、新谷先生が考案した“噛みトレ”。以下は、新谷先生おすすめの2つの噛みトレ。さっそくトライしてみて!
「食いしばり癖があると顎周りの咬筋や側頭部の側頭筋がこり固まってしまいますが、その状態で寝ると、夜中にますます食いしばりや歯ぎしりをしやすくなります。“噛みトレ”には、咬筋や側頭筋の緊張を緩める効果があるので、寝る前に行うと食いしばりや歯ぎしりを防げます。“噛みトレ”という名前ですが、何かを噛んで行うトレーニングではなく、いつでもどこでも1回2分で簡単にできるものです。寝る前に限らず、日中、食いしばっているなと思ったときにもこまめに取り入れてみてください」(新谷先生)
ムンクの叫びストレッチ
①側頭部の、奥歯を強く噛み締めたときに膨らむ部分に左右の手のひらの下側の部分を当て、軽く口を開け、軽く押しながら10秒ほどグリグリとマッサージ。
②頬の、奥歯を強く噛み締めたときに膨らむ部分(頬骨の下のあたり)に左右の手のひらの下側の部分を当て、軽く口を開け、軽く押しながら10秒ほどグリグリとマッサージ。
①②を3セット行う。
アイーンストレッチ
食いしばり癖のある人は口を大きく開けることが少なく、口や顎周りの筋肉が緊張しています。この“噛みトレ”は、口を大きく開けたり、“アイーン”の口をすることで筋肉の緊張を解消する効果が。
①口を思い切り大きく開けて、5秒キープ。
②次に、下顎を思い切り前に出して“アイーン”の口にする。
③アイーンの口のまま噛んで5秒キープ。
これを5回行う。
食いしばり歴10年
リアルに悩む編集長がボトックス注射を試してみた!
「もともと歯ぎしり癖はあったのですが、ここ1年くらいは歯が割れるくらいの衝撃を感じて夜中に飛び起きることもしばしば……」と話すのがマキアオンライン編集長の伊藤。自覚している食いしばり歴は10年にもなるとか。そこで、ボトックス注射を体験することに。
ボトックス注射は基本的に麻酔をせずに行うので、診察台に仰向けになったらすぐにスタート。今回選んだのはアメリカ製の「ボトックス(Botox)」。
まずは新谷先生が、伊藤の頬の咬筋の部分を消毒した後、触って硬くなっているところをチェックし、特に硬い部分に片側5ヶ所ずつ注射を打っていきます。極細の注射針を垂直に深めに刺して筋肉に注入するのがポイント。素早く注射していくので左右で5分ほどで終了。
「注射されているときは、場所によってズシンと響くような感じがしましたが、耐えられる範囲でした」(伊藤)
果たして注射後にどんな変化があったのでしょうか?
「今回、安眠したい一心でボトックス注射を試しました。注射を打たれる瞬間に痛みはあるけれど、終わった後は痛みは残らず、その後の食事や会話にはまったく支障なし。そしてなんと、その日の夜から食いしばりとおさらばできました! 毎晩、熟睡できるようになり、QOLが上がってうれしいです」
【体験談】マキアインフルエンサーの食いしばり改善法
ボトックス注射、認知行動療法で改善
「出産してから毎日2、3時間しか眠れず、食いしばり癖がひどくなりました。エラが発達し、肩こりもひどく、歯も削れてしまいましたが、私はボトックス注射、認知行動療法で改善することができました。ボトックス注射で食いしばる力が弱まったので、歯のすり減りや肩こりに効果が! また、認知行動療法で食いしばった瞬間や舌の位置を意識することによって、日中の食いしばりがなくなり、夜も過ごしやすくなりました」
左から、結婚式→出産2年後→今の順。初めての育児でストレスが溜まり、夜以外の日中も気づいたら食いしばりをして、2年で顔がパンパンに! 今は顔まわりもスッキリしています。
マウスピースで改善
左が過去に使用していたもので、右が歯の裏側に装着するタイプ。
イラスト/二階堂ちはる 取材・文/和田美穂 構成/福島美歩(MAQUIA ONLINE)
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