京都大学との長期にわたるパートナーシップで、人の健康に則した美しさを提案するシャネル。その目指す先は?「MAQUIA」3月号では、3人のキーパーソンにお話を伺いました。
インタビュー歴25年 マキア編集長・伊藤責任編集
最新美容の真相、ズバリ聞いトク!?
イトーーク
マキア編集長
伊藤かおり
non-no、MORE編集部を経て’08年からマキアへ。入社以来人物インタビューを中心に取材してきた経験を活かし、“美容=人生”を誌面づくりのモットーに。
(右)シャネル R&I
スキンケア マネージャー
宮本雅義さん
2003年シャネルに入社。アジア市場向けのスキンケア製品の処方開発に従事。ル ブラン シリーズは初代から今回まですべて携わる。
(中)京都大学大学院医学研究科附属
ゲノム医学センター センター長
松田文彦さん
2003年に京都大学大学院医学研究科教授、2008年〜現職に。国際的な研究所や大学などとの連携も行う。京都大学総長主席学事補佐も務める。
(左)シャネル R&I
常務取締役・研究所所長
安藤信裕さん
2002年シャネルに入社。アジアにおける研究拠点の1つとして、グローバルに展開するシャネル社の研究部門の一翼を担っている。
京都大学との共同研究で
健康的なエイジングを目指す
伊藤 2011年に外資ブランドとして初認証となった美白有効成分「TXC(トラネキサム酸セチル塩酸塩)」。この発表に相当な驚きがあっただけに、今回の新「ル ブラン セラム」がどのように進化したのか楽しみにしていました。が、その期待をはるかに超える内容でした!
安藤 シャネルは、“健康”という視点から、2014年より京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターでセンター長を務める松田文彦教授との長期にわたる共同研究をスタート。松田教授は、滋賀県長浜市における公共健康に関する疫学研究調査「ながはま0次コホート」を指揮されておられます。シャネルは、このながはまコホート研究の対象者のうち34〜79歳の女性1054名と男性198名を調査し、対象者ごとに身体的、生活習慣的、遺伝子的なデータを収集。そこで得た知見を化粧品に生かすべく、今回初めて美白製品へと昇華させました。
伊藤 私は“コホート研究”なるものを今回初めて知ったのですが、そもそもこれはどういった研究なのでしょうか?
松田 コホート研究とは、一定の集団を継続的に追跡し、疾病の要因と発症の関連を調べるための観察的研究手法の1つです。私はそこに専門であるゲノム解析を取り入れることで、健康チェックと自己申告だけの古典的な疫学研究とは異なる、生体内の変化など一連のパラメータに基づいた客観的かつ徹底的な測定値を収集しているのです。
伊藤 つまり遺伝子(ゲノム配列)+後天的な環境によりもたらされる生体変化を調べているのですね。いろいろな検査項目があるかと思いますが、皮膚に関してはどういった検査を行うのですか?
松田 質問に加え、顔や腕の高精度な写真を撮影し、その画像を皮膚科専門医が詳細に分析することで肌の状態を調べました。これらのデータをもとに、肌が老化するメカニズムの解明を目指します。
伊藤 今回の取り組みで、これまでのサイエンスからは想像がつかなかったような発見はありましたか?
安藤 とにかく驚きがいっぱいで。新たな知見としては、バランスよく栄養を摂取している女性たち、そして普段のスキンケアに鎮静するケアを組み入れている女性たちはシミが少ないという事実がわかりました。同時に、肌の乾燥が過剰なメラニン生成を悪化させる要因であることも明らかになりました。
伊藤 初代から「ル ブラン セラム」の開発に携われている宮本さんにとって、この研究データの結果はいかがでした?
宮本 興味深かったのは、“色素沈着のスコアが低い人は健康的な肌状態をしている”という点。経験則としてはあったものの、科学的に証明されたのが面白かったですね。ここから導き出されたのが今回の“ロージー グロウ”な肌。均一な明るさ、なめらかさ、透明感のある血色のよさ。これをサポートするのが新「ル ブラン セラム」のスキンケアなのです。
伊藤 宮本さんの肌がまさにロージー グロウな肌です! 昨今の美白は、ただ白さを求めるのではなく、トータルな肌質の向上を求める傾向にあります。遺伝だけではなく、生活環境で肌を変えることができるのは希望が持てますね。
安藤 この研究はまだ始まったばかり。今後10年先、20年先と研究することで、もっとパーソナルな提案ができるようになると思います。これが業界の常識となれば、今後のスキンケアに求めるニーズも変わってくると思います。
松田 ゲノムコホートが他と違う点は、生体内の変化を調べる項目があること。
宮本 その結果から、健康的な肌の明るさを維持するためには、アミノ酸の代謝が重要な役割を担うことを発見しました。アミノ酸の代謝により、栄養と細胞エネルギーを押し上げることで、正常なバリア機能と最適な水分保持が可能に。
伊藤 美白というとメラニンケアが主流ですが、今回のポイントはそこではない?
宮本 もちろんメラニンケアは大切ですが、ヘルシーなロージー グロウ肌を語る上で、それだけでは不十分です。健康的な肌を手に入れるには、何か1つだけケアをすればいいというものではなく、相互の繋がりを見ていくことが重要です。
目的▶健康的なエイジング
健康的なエイジングを奨励する目的のもと、1万人に及ぶ男女の血液、尿、遺伝子検査をはじめ、日常的な生活習慣と環境、身体測定を20年にわたって調査。この情報を解析することで、病気の原因や老化のメカニズムを解明し、発症前の予防に役立てられる。
人を生物として捉え、活動や精神、考え方などの特性も考慮して分析をする「ながはまコホート研究」と、皮膚に対する知見を多く持つシャネルが各々のデータをすり合わせることで、皮膚のエイジングに対して新たなマーカー(指標)が発見できるように!
ながはまコホート調査によって
導き出されたシミを防ぐ5つの要素
肌の臨床評価と生活習慣に関する詳細な質問項目をクロスさせることで、色素沈着や肌の明るさの喪失が生じる5つの要因を特定。新たに、食生活や誤ったケアがメラニン生成を悪化させる要因になることも明らかに。
ながはまコホート研究で
スキンケアの未来が変わる
伊藤 研究を始めた当初には、予想し得なかった結果が今後も期待できる?
安藤 今回は初めての試みのため時間がかかっていますが、膨大な検査データとシャネルが培った世界の女性の肌特性データを融合することで見えてくることがたくさんあります。今はまだこの結果が形にはなっていませんが、今後の製品開発のベースとなるはずです。
伊藤 製品のよさについてだけでなく、こうした研究背景を知ることで、より効果への期待が高まります。
松田 「ル ブラン セラム HLCS」を発売するにあたり、私の名前はもちろん、ながはまコホート研究データを出してもらうのも大丈夫。美しさの研究に携われるのはモチベーションが上がります。
伊藤 シャネルの新たな一面を見た気がします。今後は、エイジングケア分野でも活用されていくのですか?
宮本 コホート研究には無限の可能性があることを常々感じています。今後、エイジングサインに対し、具現化できる要素が見つけられると楽しいですね。
伊藤 シワやたるみに関するアプローチも、コホート研究でぜひ!
New!
ル ブラン セラム
HLCS
TXCに加え、屋久島で栽培されたガーデニア フルーツ エキスを配合。肌の力と保湿効果を押し上げ、ピンクみを帯びた色に輝く健康的な肌に。(医薬部外品)30ml ¥16500(3/5発売)/シャネル
肌を見ただけで病気までわかる時代に!?
「一滴の血液で将来の病気がわかるけれど、そのためには採血をして分析器にかけないといけない。でも、コホート研究で皮膚と環境、体内の代謝物の増減などの統計データを蓄積していけば、1枚の写真を見るだけでどんな病気に罹患しているかまでわかるようになるでしょう。これにより早期治療や病気の進行を遅らせることができるようになるのです」(松田さん)
MAQUIA 3月号
撮影/土佐麻理子 取材・文/藤井優美〈dis-moi〉
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