「実は今日、会うのは久しぶりなんです」と言いながらまるで、昨日も会っていたかのようにケラケラと笑いながら楽しそうに話す。その姿から伝わってくるのは二人が共に過ごしたであろう濃い時間。映画『キリエのうた』で初共演したアイナ・ジ・エンドさんと広瀬すずさん。新世代の二人の表現者を、繋いだもの、繋いでいるもの――。

広瀬すず アイナ・ジ・エンド キリエのうた

『キリエのうた』で過ごした二人の青春

アイナ・ジ・エンド×広瀬すず
感性の共鳴

竜巻、感性、美しさ

アイナ すずちゃんと一緒に立つ撮影現場はずっと目の前で凄いことが起こっている感じでした。すずちゃんはひとりよがりでは全くなくて竜巻みたいに周りを巻き込むようなお芝居をする人。スタートの声がかかった瞬間に黒目がギュウと定まるというか。ただ道を歩いているだけでも、たまに振り返ってはにかんでくれる笑顔も、それはもう“すずちゃん”ではなく“イッコさん”で。些細なこと、呼吸ひとつまで、私にとっては竜巻で。その竜巻は、いつも、とても、美しかった。 
広瀬 アイナちゃんは枠にハマることなく自由に表現できる人。歌はもちろん、お芝居もまた、感情がそこにちゃんと宿っていて。そんなアイナちゃんの美しさを一言で表現するなら“感性”。それはとても豊かで美しくて……なんか妖艶なんです(笑)。ダイレクトに“色気”と表現するのとはまた違って、それこそ、表情ひとつで竜巻のように心を持って行かれてしまう。気がつくと、目が離せなくなっているんです。

「キリエとイッコ」と「アイナとすず」

アイナ 私達はお互いに人見知りなんですけど。撮影初日、北海道のロケバスで二人きりになったとき、最初に話しかけてくれたのはすずちゃんなんです。「す、す、好きな食べ物はなんですか?」って。
広瀬 え、全然覚えていない(笑)。
アイナ しかも、私が答えにモゴモゴと迷う中、すずちゃんは「私はラーメンです」とキッパリ答えて。その姿を見て潔くてカッコいいと思ったんだよね(笑)。


――映画『キリエのうた』で共演。路上で歌うミュージシャン・キリエをアイナ・ジ・エンドさん、そして、彼女のマネージャーを買って出る謎めいた女性・イッコを広瀬すずさんが演じている。
広瀬 演じながら「なんでキリエはこんなにもイッコのことを信じることができるんだろう」と思ったことも。それくらい、二人の間には、強いんだけど太いわけでもなく、細いんだけど切れることのない、不思議な絆があって……。
アイナ 二人を繋げていたのはきっと"同じような匂い"。お互いの人生は決して順風満帆とは言えず、お互いに何か欠けているものがあったからこそ、絆のようなものが生まれたんだと思う。


――今作の撮影中、二人の仲もぐんと深まったそうだ。「共有しようと頑張らなくても、無理に繋がろうとしなくても、そばにいるのが自然で。終わったあとに、それが特別だったことに気づくような……。アイナちゃんと過ごした時間はまるで"一緒のお風呂につかっているような感覚"だった」と広瀬さんは振り返る。
アイナ 撮影後も私のライブに来てくれたり、SixTONESのライブに岩井組でお邪魔したり、交流は続いているんだけど、撮影中のようには頻繁には会えなくて。でも、今も変わらず繋がっている感覚があるんです。それは、キリエとしてなのか、自分としてなのか、初めての感覚なのでよくわからないんですけど。
広瀬 うん、なんかわかる。今日も会うのが久々なんですけど、ぐんと時間が巻き戻った気がしましたから。あの頃の二人に。

大人の青春

アイナ 言葉を発するのが苦手だけど歌なら歌えるキリエには自分と共鳴するところがあって。私も4歳からダンスをやっているんですけど、人と会話をするより、ダンスでコミュニケーションをとったほうが楽しく周りと仲良くなれたんです。歌を歌っているときは孤独でない、周りに誰かがいて、自分の存在位置が上がる、そこもまた同じです。さらには、すずちゃんといると勝手にキリエになれて……。本格的なお芝居は今作が初めてだったけれど、とても楽しく、“大人の青春”をしているような感覚もありました。
広瀬 岩井俊二監督率いる岩井組はとても自由で。その中で、お芝居をさせていただくのですが自由に遊ばせてもらったという感覚もあって。だからこそ、イッコとしてキリエとして「生きた!」実感もあるというか。お仕事だけど、お芝居だけど、それだけじゃないその感覚が私たちの「青春」に繋がっているのかもしれないです。

お話を伺ったのは
広瀬すずさん

SUZU HIROSE

広瀬すずさん

静岡県出身。2013年の俳優デビュー以来、数々の映画やドラマで活躍。映画『ラストレター』(2020年)で岩井俊二監督作品に初参加。

アイナ・ジ・エンドさん

AiNA THE END

アイナ・ジ・エンドさん

大阪府出身。表現者、シンガーソングライター。楽器を持たないパンクバンド・BiSHの元メンバーでほぼ全曲の振り付けも担当。今作が初主演映画となった。

MOVIE「キリエのうた」

歌うことでしか“声”を出せないミュージシャン・キリエ(アイナさん)、キリエのマネージャーで、謎めいた女性・イッコ(広瀬さん)ら4人の男女が、苦難に翻弄されながら出逢いと別れを繰り返す13年間にわたる愛の物語。 現在上映中。

MAQUIA 12月号
撮影/長山一樹 ヘア&メイク/KATO〈TRON〉(アイナさん) 奥平正芳(広瀬さん) スタイリスト/菅沼 愛〈TRON〉(アイナさん) 丸山 晃(広瀬さん) モデル/アイナ・ジ・エンド 広瀬すず 構成・文/石井美輪 企画/萩原有紀(MAQUIA)

MAQUIA書影

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