“ボディポジティブ”や“ダイバーシティ”といった言葉が注目を集め、さまざまな価値観が尊ばれるようになった昨今。何を美しいと感じるかという美的価値観も、人それぞれ多様化する傾向にあります。だからこそ、逆に自分がどんな“キレイ”を目指せばよいのか迷子になってしまっている人も多いのでは? これからの美容についての発信も多い、OSAJIメイクコレクションのディレクターも務めるビューティライターAYANAさんにお話を伺いました。
インスタグラムで発信するハイセンスなコスメ情報が話題に。コスメブランドOSAJIのメイクアップライン開発にも携わる。著書に、様々な美しさについて語ったエッセイ集『「美しい」のものさし』(双葉社)がある。
化粧品開発を経てビューティライターというキャリアを選んだAYANAさん。自身が関心を寄せるアートやエンターテインメントなど様々な観点から美容を見つめ、分析し、SNSやエッセイを通して発信してきた。AYANAさんの個人的な美意識が綴られた著書『「美しい」のものさし』からは何を美しいと思うかは人それぞれでいいという温かい視点が感じられる。そんなAYANAさんが考えるこれからの美容のあり方とは?
美意識が多様化するようになったのはなぜ?
―AYANAさんはビューティライターとして美容トレンドを客観的に眺めながら、他方では化粧品ブランドのメイクアップラインのディレクターとして、トレンドを生み出す一翼も担っています。そんなAYANAさんは、最近の美的価値観の変遷をどう捉えているのでしょうか。
「やはりインターネット、特にSNSの登場が美的価値観の大きな転換点だったと考えています。それ以前の美が画一的であったかというと必ずしもそうではなく、人によって好みは違っただろうし、時代の変化にともなって“美人”が象徴するものが変化することもあったでしょう。
でもSNSが普及する以前に存在した美容の情報源は、テレビや雑誌が主であって、美のトレンドはそこから生まれていました。だから、ある程度美意識が画一的になっていたと思います。ところがSNS上では、誰もが情報を発信できる。美容でも何でも、最初は“知る”ことから始まりますよね。知らないことは、好きになりようがないから。SNSが普及したら、今まで知らなかったさまざまなカルチャーやスタイルに出合って、その中から自分なりの“好き”、“キレイ”を見つけることができる。そうして、美意識が細分化されるようになったのだと思います」
―AYANAさんご自身も、SNSで新しい美意識に出合うことはありましたか?
「インターネットって情報が無尽蔵に上がっているけど、大事なのはそこからどうやって欲しい情報、自分と相性のよい情報にたどり着くかですよね。そこが私、性に合っていたみたいで。同世代の中でも割と早い段階からインターネットを利用していて、mixiや趣味の情報を共有するサイトに登録して、ネット上の人とファッションの話なんかで盛り上がっていたんです。TwitterもInstagramも、世に出てきたらすぐアカウントをつくって、たくさん友達ができました。そこから新しい世界や知らなかった情報を知ることは、今でもよくあります」
“私らしさ”がわからなくなってしまったら……
―本当にSNS上には、いろんなメイクやファッションがアップされていて、面白いですよね。でも“どんな美もアリ”になってくると、逆に“美しい”って何? という疑問が湧いてきます。
「美とは何か、という定義ですね。その答えは人の数ほどあるはずですが、美を“何かと比較して決めるもの”、相対的なものだとすると、全部が美しいとする答えは確かに成り立ちません。私は、美って“人の心を動かすもの”だと思うんです。そうすると、人が心を動かす対象はいろいろなので、美の価値観が多様化するのは自然なことだと言えますよね」
―なるほど。それではそんな風にいろいろな美がある中で、こうなりたいという目標、自分なりの美意識を確立するには、どうすればよいのでしょうか?
「確かに、美は多様なものだからあなたなりのキレイを見つけてね、と言われても困っちゃいますよね。何かしらの正解だったり、目標が欲しいと考えるのは当然だと感じます。そうですね、私は“自分が何を好きなのかを意識すること”が大切だと思います。何かを好きだと感じたとき、どうしてそれが好きなのか考えると、自分のなりたい方向が見えてくると思うんです。これは美容に限ったことではないのですが、たとえば魅力を感じる人の写真があったら、その写真のどこが好きなのかを考える。雰囲気なのか色なのか所作なのか。その好きなポイントを再現できるアイテムなり姿勢なりを取り入れていけば、目指すビューティが見えてくると思います」
“自分らしく”から“自分が楽しめること”へ
―とりあえず好きなものを見つける、というのは楽しそうですね。
「自分が何を好きかもわからない、というのであれば、まずは人に合わせるのでも、流行を追いかけるのでもかまわないと私は思います。友達の●●ちゃんがこれを好きだっていうから私も合わせてみる、でOK。場の空気を乱さないよう無理矢理合わせるのは辛くなるけど、自分から進んで合わせる分には楽しめますよね。最近はよく“自分らしくいて”と言われますが、自分らしさを見つけることに真面目になりすぎると、迷路にはまって、好きなことを見つけるのが難しくなってしまうかもしれない。それより、流行でも真似でも、自分が楽しめる美容を見つけられればいいと思うんです。“楽しい”というのは“好き”ということですから、そこから自分らしさのヒントが見つかっていくのではないでしょうか」
イラスト/オカダミカ
取材・文/風間裕美子 企画・構成/横山由佳<MAQUIA>