創刊20周年を記念したスペシャル連載にご登場頂くのは作家の綿矢りささん。20年以上にわたり執筆を続けている彼女の創作活動における原動力や、“美しさ”に向ける眼差しに迫ります。

綿矢りさ インタビュー

お話をうかがったのは
綿矢りさ

作家

綿矢りさ

1984年生まれ、京都府出身。2001年に『インストール』で文藝賞を受賞し、作家デビュー。2004年に『蹴りたい背中』で芥川賞、2012年に『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞。『勝手にふるえてろ』『ひらいて』など、映像化された作品も多数。

綿矢りさ、楽しんでるっていい

綿矢りさ インタビュー  綿矢りさ、楽しんでるっていい

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根拠のない自信をもつことも今の時代には必要だと思う

メイクやファッションが創作の刺激になることも

綿谷りさ インタビュー メイクやファッションが創作の刺激になることも

衣装候補を前に「着てみましょうか?」と提案してくれた綿矢りささん。数着ほど試し、決定したのはオレンジのワンショルダー。難易度の高いデザインを軽やかに着こなす姿からは、ファッションに対する関心の高さが伝わってくる。そんな綿矢さんは17歳の時に作家デビューし、19歳で芥川賞を受賞。感情をリアルに描く彼女の小説は、時代の空気を映すディテールも秀逸。新作『パッキパキ北京』でも中国のトレンドが詳細に描かれているが、聞けば自身も二年前に北京に滞在。その際に中華メイクにハマったという。

「日本と違い、やりすぎなくらい顔を作り込む点が面白いところ。コスメも派手色が多いですが、個人的には陰影で魅せるMAOGEPINGのパレットが気に入っています。小説に描く服装やメイクによって文章も変わるので、私にとってメイクやファッションは創作の刺激を与えてくれるものでもあるんです。執筆中はすっぴん&メガネ姿ですけどね(笑)」

美の流行が移り変わっても楽しむ姿勢は変わらない

綿谷りさ インタビュー 美の流行が移り変わっても楽しむ姿勢は変わらない

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小説を通じ、女性の自意識の在り方を様々な形で描いてきた綿矢さん。ここ20年の“美しさ”に対する意識の変化をどう捉えているのだろうか。


「20年前というとコンサバ系やギャルメイクの時代かな? そこからタレ目やおフェロ顔などが流行って、今はナチュラル系が主流。改めて振り返ると、どの時代もみんなメイクで顔が変わることを楽しんでいたなって感じます。流行の変遷はあっても、そこの関心が尽きたことはないんですよね。今は情報が増え、男性もメイクをする時代。もちろんキレイになるという目的がありつつも、根底にはやっぱり“楽しみたい”という気持ちがある気がします」


一方で、技術や情報量が発展した現代は、美の追求に限度がない面も。美容整形を題材にした作品を執筆したこともある綿矢さんの考えとは?


「整形は痛みを伴うもの。それでも何度も繰り返す人もいて、私はそこに勇敢さを感じるんです。そういった選択に警鐘を鳴らす人もいるけれど、“いいじゃん”と突き進む人の強さも面白いなって思いますね」


“こうあるべき”に縛られる必要はなく、美しさの正解を決めるのは自分。そんな自分軸を尊重する姿勢は、自己肯定感に関する回答からも感じられた。


「自己肯定感って人からの評価や努力を根拠として培われることが多いけれど、私は根拠がなくてもいいと思うんですよ。バカボンのパパのように“これでいいのだ”と自分に思えたら無敵なんじゃないかなって。今はそういう人を失笑する風潮があるからこそ、何にも左右されない自信を持つことも大事だと思います」

執筆活動を続けていく中で日本語の柔軟性に改めて気づいた

綿谷りさ インタビュー 執筆活動を続けていく中で日本語の柔軟性に改めて気づいた

頭に浮かぶ場面を言葉で紡いでいく作業が好き

本連載のテーマは『明日の私をMAKEしよう』。自身の創作の世界を20年以上MAKEしてきた綿矢さんに、その原動力を尋ねてみた。


「頭に浮かんだ場面を言葉にしたいという思いが、私が小説を書く理由。この情景を文字にしたらどうなるんだろう、と考えるのがすごく好きなんですよね。編み物にも少し似ていて、“こんな毛糸があるから編んでみよう”と作業を始め、いつしかセーターみたいなものが出来上がる。作っている時は集中できて楽しいし、出来上がったらみんなに見てもらえて楽しい……そんな繰り返しが細々と続いている感覚なんです」


とはいえ、20代の頃は小説が書けなくなった時期もあったという。


「小説のネタ探しで旅行や人間観察をしたことも。でも私は書くことに対してわがままなところがあり、結局自然に任せるしかないんですよね。今は。“書きたいことがいつなくなるかはわからんけど、多分大丈夫やろう”という気持ちでいます」


そんな綿矢さんが、長年執筆を続ける中で発見したことがあるそう。


「当初は畏まった文章を書いていたけれど、声が聞こえてこない気がしてかなり崩してみたんです。それでも意外と読んでもらえて、日本語の柔軟性に改めて気づきました。同時に、“ここまで人間の醜い感情を書いても読んでくれるんや”と読者の方の受け止める力にも全幅の信頼を置くように。文章に関しては、調子に乗って崩しすぎて校閲の方にビシバシ怒られ、正気を取り戻す……という時もわりとありますが(笑)」

頭でっかちになりすぎず生活の手触りも大切に

綿谷りさ インタビュー 頭に浮かぶ場面を言葉で紡いでいく作業が好き

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作家として活躍する一方で、日常生活では出産や育児を経験。これまでの時間を振り返り、自身の変化を感じる点は?


「昔の自分は、今とは別人のようにはにかみ屋だったと思います。今はいろんなことがどうでもよくなってきて、昔ほど些細なことに気づかなくなった気が。とはいえ、自分と一緒に小説の主人公の年齢も上がっているので、そういった変化を登場人物に投影することもあります」


変化を実感する中、年齢を重ねること自体はどう受け止めているのだろうか。


「創作に関して言うと、成長しつつも失っている……みたいな感覚があるんです。ただ自分の実感と読む人の意見が違うこともあるので、把握しきれない部分も。人間としては失っていくものの方が目に付きやすいけれど、やっぱりそうではなくて。昔に比べると精神的に得ているものがたくさんあると思っています」


最後に、今後どのように年齢を重ねていきたいかを尋ねると、意外な答えが。


「流れに抗わず、その中で楽しいことを見つけて実践していきたい。私は欲望の塊みたいなところがあって、流行りのメイクやファッション、食べ物なんかをチェックするのがすごく好きなんです。そういったものって、深刻な問題をも忘れさせてくれるパワーがあるんですよね。“自分とは何か?”とか考えるよりも“明日どんな服着よう”と考えることの方が、実際の生活に根ざしている分、実は大切なんじゃないかなと本気で思うことも。もうダメだと思うくらい悩んでいても、ふと鏡をのぞいたら“意外と元気そうだな”と思ったりもするので、あまり頭でっかちにならずに現実的な生活の手触りも大事にしていきたいですね」

綿谷りさ インタビュー 頭でっかちになりすぎず生活の手触りも大切に

MAQUIA読者に読んでもらいたい ターニングポイントになった3冊

1.『かわいそうだね?』

綿谷りさ 本 『かわいそうだね?』

「収録作の『亜美ちゃんは美人』は、美人な亜美ちゃんが抱える問題を他者目線で書いてみた作品。美人を目指している方に読んでもらえたら嬉しいですね」¥1430 綿矢りさ著 文藝春秋

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2.『生のみ生のままで』

【MAQUIA20周年インタビュー】 綿矢りさ、楽しんでるっていい|#明日の私をMAKEしよう_9

「女性同士の恋を描いた作品ですが、女の人の外見や中身の美しさについても書いているのでMAQUIA読者の方に興味を持ってもらえるんじゃないかな」 上・下  各¥616 綿矢りさ著 集英社文庫

3.『嫌いなら呼ぶなよ』

綿矢りさ 本 『嫌いなら呼ぶなよ』

「コロナ禍後の話なので、実感があるこのタイミングでぜひ読んでもらいたい一冊。周囲の整形イジリに対抗する女性を描いた作品も収録されています」¥1540 綿矢りさ著 河出書房新社

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待望の新刊『パッキパキ北京』

綿矢りさ 新刊 『パッキパキ北京』

時はコロナ禍。北京に単身赴任している夫の元にやってきた元銀座の高級クラブ嬢・菖蒲の目まぐるしくもパワー溢れる駐妻ライフを疾走感のある文章で描いた傑作。¥1595 綿矢りさ著 集英社

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