80種もの天然香料とアルデヒドが交差。香りの歴史に革命を起こしたシャネル N°5には、メゾンが大切に守り継ぐキー香料が存在する。貴重なグラース産ジャスミンが咲き誇る9月のグラースへ。愛され続ける名香の舞台裏を訪ねて。

星の花ジャスミンが開花するグラースで紐解く“永遠の名香”シャネル N°5の原点へ。
出版社で女性誌編集者を経てフリーランスに。美容誌や女性誌、広告など、さまざまなメディアで活躍。香りにも一家言あり。
名香には、人を虜にする理由がある。シャネル N°5世界中が恋する香りのエタニティな魅力を解き明かす
シャネルの名を世界に轟かせ、100年以上経た今なお愛され続ける名香、シャネル N°5。香りの概念を覆す独創的な香調、シンプルで直線的なデザイン、さまざまな妄想を掻き立てるN°5というネーミングなど、伝説は数多くあるが、でも一体なぜ、これほどまでに人を惹きつけてやまないのだろう。N°5の原点を辿ってみると、その理由がわかるはずだ。
1921年、クチュリエが世に送り出した最初の香水は、それまでの香水の常識を根底から覆す、天然香料とアルデヒド(合成香料)の融合。初代専属調香師エルネスト ボーが「女性そのものを感じさせる、女性のための香水を創ってほしい」というガブリエル シャネルのリクエストに応えたものだ。その際、提示された唯一の条件が、もっとも美しい原料を使うこと。
それがグラース産のジャスミン、これこそがN°5の原点だ。どれほど美しい原料なのかその真相を探るため、この秋、ジャスミンの開花の時期にあわせ、南フランス グラースにあるシャネルの専用農園にセレブリティたちが集った。彼女たちが目に焼き付けた芳しい光景とは?
ジャスミンが咲き誇るグラースに思いを馳せながら、N°5の原点をひとつひとつ紐解いていこう。

豊かな土壌と温暖な気候に恵まれた南フランス グラースは香りの聖地と呼ばれる街。シャネル専用農園では9月がジャスミンの収穫期。官能的なジャスミンが花摘み人の両手いっぱいに。

グラースのサヴォアフェールは2018年よりユネスコの無形文化遺産に指定。専用農園に咲くジャスミンと永遠の名香シャネル N°5。


専用農園ミュル家の敷地内にあるファクトリー。9月はジャスミンの収穫期。

4代目専属調香師オリヴィエ ポルジュ氏は、3代目専属調香師の父のDNAを受け継ぐサラブレッド。シャネル N゜5 ロー オードゥ トワレットの作者。「花は、構成において最も大きな影響を与える存在です。花は最も構造を形づくる原料であり、最も貴重で最も高貴なものです。技術の進歩、嗜好の変化、時の流れにかかわらず、私たちはいつも花に立ち返るのです」のメッセージも。

約60名で手摘み。バスケットはいっぱいに。
手摘み作業は2000時間。1000輪のジャスミンの恵み
エルネスト ボーがN°5のために選んだもっとも美しい原料の一つ、それがグラース産のジャスミン(学名グランディフロラム)だ。他品種のジャスミンよりフレッシュかつ官能的で、他の成分に左右されず安定した芳香を放つ特別なジャスミンだという。そして、N°5のパルファム30㎖には1000輪ものジャスミンが必要だというから、パルファム一滴がどれほど貴重なものかが想像できる。
原材料確保のために、シャネルがグラースの農園を営むジョゼフ ミュル家とパートナーシップを提携したのが1987年。以来、農園は着実に成長を遂げており、貴重なジャスミンの鮮度を保ったまま高品質なエッセンスが抽出できるようファクトリーも併設。実は花のクオリティの管理からエッセンスの抽出、そして調合までの過程をすべて管理するのが、4代目シャネル専属調香師オリヴィエ ポルジュ氏だ。
調香師の仕事は、単に調香というクリエイションだけではないことがわかる。とくにグラース産のジャスミンは小ぶりで可憐。夜間に開花することから“星の花”とも呼ばれ、とてもデリケート。季節ごとに人の手がかかり、オーガニック栽培にこだわるシャネルにとって、まさに自然が生み出す輝石のような存在なのだ。


グラースに招かれたセレブリティは花の計量シーンに立ち会ったのち、工場見学も。また、オリヴィエ ポルジュ氏のエスコートによって複数のジャスミンやローズ ドゥ メなどN°5にとって大切な花のエッセンスやN°5のバリエーションを体験。

グラース産ジャスミンは、日本でなじみのあるジャスミンより可憐で小ぶり。ジャスミン畑とN°5。


グラースを訪れた俳優の出口夏希さんとXGのリーダー、JURINさん。

©️CHANEL
シャネル N°5 オードゥ パルファム 100ml ¥24200/シャネル
グラース産ジャスミンをはじめとする80種以上の天然香料とアルデヒドの融合は唯一無二のもの。永遠の女性らしさを物語る花々のブーケだ。

©️CHANEL
シャネル N°5 パルファム 30ml ¥48400/シャネル
メゾンのサヴォアフェールが息づくシャネル N°5
ジャスミンが咲き乱れる9月のグラースは収穫のハイシーズン。約60名の花摘み人が手摘みを始めるのが早朝。全開した花のみを選び、手のひらで覆うように包んで摘む、繊細な手仕事だ。摘まれたジャスミンはエッセンス抽出工場へと出荷。
アブソリュート(精油)抽出への工程が始まるのだが、ここからがメゾンが誇るサヴォアフェールの真骨頂。2000時間の手摘み作業で集められた700㎏のジャスミンの花から、わずか1㎏のアブソリュートへ。アブソリュート以外の花とワックスはハンドクリームに配合するなど、サステナビリティも徹底。それほど貴重なものということがわかる。
N°5は調香師に化学者、文化遺産保全管理者や摘み手など、総勢55人の職人の手によってはじめて完成。花からボトルまで、すべての工程を自社で行うブランドの矜持そのもの。
N°5を肌に纏う瞬間、脳裏に浮かぶのはグラースに咲き乱れるジャスミン? それとも誇り高き職人たちのパッションだろうか? この小さなボトルのすみずみまで散りばめられているのは人と自然が織りなす誇り高きハーモニー。だからシャネル N°5は唯一無二、永遠の名香なのだ。
MAQUIA 1月号
取材・文/安倍佐和子 写真提供/CHANEL
公開日:
























































































