世界的な人気を誇る長寿リアリティ番組『ル・ポールのドラァグレース』(※米ドラァグ・クイーン界の伝説的存在、ル・ポールがホストを務める勝ち抜きコンテスト。日本ではNetflixで配信中)シーズン6に出演し、圧倒的なダンスパフォーマンスで世界を魅了したラガンジャ・エストランジャが来日公演を実施! 類まれな身体能力を活かした激しくもエモーショナルなダンスでも崩れないメイクの秘訣や、日本文化に寄せるリスペクト、トランスジェンダー当事者のアクティビストとして日本のLGBTQコミュニティに寄せる思いを聞きました。

ドラッグクイーンのラガンジャ・エストラージャMAQUI ONLINE撮り下ろし

ラガンジャ・エストランジャ

ドラァグクイーン

ラガンジャ・エストランジャ

1988年生まれ、アメリカ・テキサス州ダラス出身。ドラァグクイーン(派手な衣装やメイクでデフォルメされた女性像を演じるパフォーマー。ダンスやリップシンクなどのステージを得意とするタイプ、毒舌を活かしたコメディ系、アーティスト系、モデル系など個性はさまざま。ゲイやトランスジェンダーの抵抗運動の中で発展し、クィアカルチャーに深く根ざしている)、ダンサー、振付師。LGBTQ +活動家。2014年に『ル・ポールのドラァグレース』シーズン6に出演し、注目を集める。2021年にトランスジェンダー女性であることをカミングアウトし、自身の経験をSNS等で発信。トランスジェンダーコミュニティの理解啓発のための活動も行う。

大好きな旅をしながら、世界中の人に愛を伝える

 人気リアリティ番組『ル・ポールのドラァグレース』シーズン6で、登場するなり高難易度の大技「デス・ドロップ」(開脚しつつ背中から地面に倒れる)を決めて一躍注目を浴び、最強のリップシンクアサシン(※『ル・ポールのドラァグレース』の人気クイーンが再集結する特別番組『ル・ポールのドラァグレースオールスターズ』で、その回の勝者がリップシンクバトル〈口パクしながらのダンス対決〉で戦う相手を"リップシンクアサシン"と呼ぶ。ラガンジャはオールスターのシーズン6エピソード3にリップシンクアサシンとして登場し、勝利した)として話題になったラガンジャ・エストランジャ。世界的なクィーンが、クラウドファンディングで日本の新宿二丁目で単独公演を開催した理由は?

  • ラガンジャ・エストラージャMAQUIA ONLINE撮り下ろし

    衣装は、編集者でリメイク着物作家のクドウサエコさんが、2週間かけてビーズ刺繍を施した特注品。

ーーーラガンジャさんを、『ル・ポールのドラァグレース』で知った日本人は多いと思います。世界中で放送される人気番組に出場したことで、変化はありましたか?


「『ル・ポールのドラァグレース』は、アーティストとしての私を育ててくれた番組。窮屈なセットでの長時間に渡る撮影や出演者同士で競い合う環境など、完璧主義な私にとってはハードな面もあったけれど、そのぶん鍛えられたしベストを尽くしました。


 もともとは地域の小さなコミュニティでパフォーマンスをしていましたが、テレビ出演をきっかけにたくさんの人が私を知って、声をかけてくれるようになりました。おかげで、いまでは大好きな旅をしながら、こうして世界中の人に愛を伝えることができています」


ーーー今回の来日は、ラガンジャさんたっての希望とのこと。日本に惹かれたきっかけは?


「同じシーズン6に出演していた、日系ドラァグクィーンのジア・ガン(シーズン6に出演した日系アメリカ人のクィーン。ラガンジャのかつてのルームメイトで、番組中でトランスジェンダー女性であることを明らかにした)の影響です。ジアが日本舞踊の経験者で、彼女を通して日本文化に魅了されました。私はどの国に赴いた時もその歴史に敬意を持ちながら、文化の中に浸って体感するようにしています。前回来日した際は、着物をまとって茶道を体験したのですが、日本のファンが喜んでくれて、すごくうれしかった! 日本のファンと交流し、LGBTQ +のアクティビストとして社会貢献したいとの思いから、東京での公演を熱望していました」

ラガンジャ・エストラージャMAQUIA ONLINE撮り下ろし

「私のアイデンティティーを表すグリーン&麻の葉(ガンジャ)モチーフで、日本の伝統文化にモダンさをプラスしたデザインが気に入ってます」

ーーーステージ上で、涙ながらに「誰が助けてくれるかわからないから出会いを大切にしましょう」と語る姿が印象的でした。

「初めての来日は、去年開催された『WERQ THE WORLD』(『ル・ポールのドラァグレース』公式の世界最大のドラァグショー)。ショーが終わった後はクタクタでホテルで休むクィーンが多かったのですが、私は街を探索するのが楽しみで一人で街に繰り出しました。その夜に偶然出会ったのが、今回のイベントの呼びかけ人である日本のドラァグファンでした。今回のイベントはまるで魔法のようで、ずっと忘れられない思い出になるでしょう。だって、プロモーターもスポンサーもなく、ファンによるクラウドファンディングで単独公演が実現するなんて前代未聞ですから。今も思い返すと涙が込み上げるくらい、愛の力が全てを動かすと実感した瞬間でした」

自分を愛せてないのに愛を説き、嘘の中で生きているようだった

ーーー2021年にトランスジェンダー女性であることをオープンにされました。当時はどんな心境だったのでしょうか?

「私の故郷であるテキサス州は、ゲイへの偏見が強い保守的な地域で、ましてやトランスジェンダーであることは最低のタブーとされることなんです。最初はノンバイナリー(男性・女性といった二次元論的な枠組みにとらわれないセクシュアリティのこと)であることをオープンにして、少しずつ歩んできました。どこででも受け入れられる真実ではないと知っているから、家族や仲間が自分をどう思うか怖かったんです。ステージでは、"自分を愛せなければ、どうやって他者を愛せるの?(『ル・ポールのドラァグレースの名台詞として知られている))"と説いていても、私は自分が愛せてなかったから、嘘の中で生きているように感じていました。トランスジェンダーであることをオープンにしたのは、トランシジョン(身体的特徴、ジェンダー表現、ライフスタイルなどを自身のセルフイメージに近づけるプロセス。性別適合とも言う)するか死ぬかというところまで追い詰められていて、幸せじゃなかったから。トランスジェンダー女性として気持ちの平穏を手に入れ、自分を愛することができたことで、真の意味で人に愛を伝えることができるようになりました。今は、かつての私がいて欲しかった、ロールモデルになろうと努力しています」

ーーー最近、セクシャルマイノリティを取り巻く政治的な状況が厳しくなっています。そんな中、日本のLGBGTQ+、特にトランスジェンダー当事者やアライ(LGBTQ+などのマイノリティを理解し、支援する味方のこと)へのメッセージはありますか?


「ラブ、サポート、リプレゼンテーション! 愛して、支えて、本当の姿を正しく伝えることです」

ラガンジャ・エストラージャMAQUIA ONLINE撮り下ろし

「魂の窓と言われる目のメイクにはこだわります。アイメイクに使ったホログラムシャドウを、唇にもぼかしてイメージを統一」

セッティングスプレーの2本使いで崩れないメイクをキープ

  • ラガンジャ・エストラージャ 愛用コスメ MAQUIA ONLINE取材

    使い込んだブラシが並ぶ、ラガンジャのメイクルーム。パレットは、右からBlend Bunny CosmeticsのEllis Atlantis 45 Shade Palette、DANESSA MYRICKS BEAUTYのホログラムカラーのパレット(限定品)、COLOUR POPのPlecious Metal

ーーーダンスの実力で知られ、振付師としても活躍するラガンジャさん。踊って汗をかいてもひと晩中崩れないメイクの秘訣は?

「セッティングスプレーの2個使いが秘訣です。まずは、メイクアップフォーエバーのミスト&フィックス! 肌に潤いを与えながらメイクを長持ちさせてくれます。さらに、長年愛用しているURBAN DECAY のオールナイターセッティングスプレー。顔がべちゃべちゃになるぐらいたっぷり浴びて、仰いで乾かすのがポイントです」



ーーー他にもドラァグメイクに欠かせないマストコスメを教えてください。

「ベースメイクは、ローラ メルシエのリアル フローレスウェイトレス パーフェクティング ファンデーションでナチュラルに仕上げた上から、ドラァグクイーン御用達のハイカバーなルースパウダー、COTY Airspun Loose Face Powderをたっぷりと。ドラッグストアで手軽に買えるから、惜しみなく使えます。GERARD COSMETICSのピンクのブラーリングパウダー、SLAY THE BAKE PINK BLURRINGは、Tゾーンに使えばハイライトにも、頬にのせればチークとしても使えるお気に入り。今日のチークは、ホワイトをベースにパープル、ピンク、イエローのグラデに。芸者さんの伝統的な頬紅を参考に、額の方まで幅広く入れてみました。目元には、DANESSA MYRICKS BEAUTYのホログラムカラーのパレットを多色使い。リップにもブルーとグリーンをブレンドして載せ、アイメイクとマッチさせています。もっとナチュラルに仕上げたいときはCOLOUR POPのPlecious Metal、色で遊びたいときは、イギリスのドラァグクイーンがプロデュースした、Blend Bunny CosmeticsのEllis Atlantis 45 Shade Paletteを使います。そして、何よりも欠かせないのが私が1年がかりで色作りにこだわったTrixie  CosmeticsのExtravaGANJA Paletteです。全部で12色あるうち、左4色がデイリーに使えるベーシックカラー、中央4色が私のアイデンティティカラーであるグリーンのグラデーション、右4色がトランスフラッグのカラーになっていて、まさに私を表現したパレットなんです。もし、無人島にひとつだけ持って行くならこのパレットですね。チークは野生の実で代用しようと思います(笑)」

ーーードラァグメイクをするうえで、特にこだわっているのはどんなパーツや工程ですか?

「日本舞踊でも目は魂の窓と言われるので、アイメイクですね。正確さと大胆さを兼ね備えたフォルムとブレンディング(混ぜてぼかすこと)には特にこだわっていて、ブラシがとても重要。こうと決めたら強めのタッチで塗るのがポイントです。勇敢にストロングストローク!」


 
ーーーステージでも、エモーショナルな目の表情がとても印象的でした。今日の撮影でも、ツーッと涙を流す場面がありましたが、あの涙はどういう涙だったのでしょうか?



「レンズの向こうにいる人と目で繋がって、物語を聞かせるようにフィーリングを伝えるのが私流。このスタジオに流れるみんなのエナジーが、自然とそうさせたんです」

ラガンジャ・エストランジャのダンシング“ドラァグクイーン”メイクアップ_6

「レンズの向こうにいる人と目で繋がって、物語を聞かせるようにフィーリングを伝えます」

ーーービューティーのインスピレーションはどんなところから得ていますか?


「親友のロバート・ヘイマンからたくさんの刺激を受けています。彼は、フォトグラファーでありメイクアップアーティストであり、スタイリストであり、俳優で舞踏家でもあって、とても才能のある人です」


ーーーラガンジャさんにとって、メイクとは?


「トランスフォーメンション(変身)するためのパワーをくれるものですね。ノーメイクだとまるで裸でいるようで落ち着きません。メイクをすることで、本来の自分であると感じることができます」


ーーーメイクを愛する『MAQUIA』読者にひとことメッセージをください。


「外側も大事だけど、やっぱり内側が綺麗じゃないと美しくなれません。美は触れるものじゃなくて、感じるもの。あなたの表面じゃなくて、さらに奥にあるものです」

ラガンジャ・エストランジャのダンシング“ドラァグクイーン”メイクアップ_7

ラインストーンをあしらったキセルを加えてポージング。「ダンスは、通訳を必要としない世界中の人に伝わるパワフルな言語です」

衣装/半襟 ¥3850/AIRPORT LOUNGE その他/スタイリスト私物

撮影/植村マサ 衣装制作/クドウサエコ 着付け/カタヤマトモコ 通訳/西谷友雅 取材・文/長田杏奈 構成/山下弓子(MAQUIA)

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