長年美容に携わり、時代ごとのトレンドの変化を肌で感じてきたスペシャリストが、今回の受賞アイテムに思うこととは? 美容業界を牽引する4人に、トレンドを読み解いていただきました。

2024年 上半期 美容トレンド

美容を見つめ続けた4人が語る
上半期ベストコスメ、私の視点

齋藤 薫さん

美容ジャーナリスト

齋藤 薫さん

女性誌編集者を経て美容ジャーナリストに。女性誌を中心とした数多くの連載エッセイを通じて、美しさの本質について提唱し続ける。

山が動いて、永遠の脇役が一気に主役へ?

今回の結果を一言で言うなら、「山が動いた」。まずスキンケアから言えば、ベスト・オブ・ベストこそ上期のスターである美白が来たが、今回のスキンケア市場の主役は、「UVケア」だったと見てもいい。UVケアは全員にマストとは言え、永遠の“脇役”で、表舞台では脚光を浴びるはずのないアイテムだった。ましてやSPF 50+、PA++++という上限が設けられ、大気汚染のプロテクトも標準化されると、差別化も難しくなって無風状態が続いたからこそ、ここ数年で各社が一気に新機能搭載やスーパーマルチ化をUVケアに集中させてきたという形。「シミもシワも肌荒れも全部防いで下地もやりますけど、私じつはUVケアです」みたいな有り難すぎる製品が次々デビューし、今まで番外扱いされてきたアネッサやアリィーなどが高機能で注目を浴び、新知見部門にもUVケアが2つも。そういう意味でも山が動いたと言えるだろう。


色ものでも今回、最も注目すべきは黒KANEBOの口紅がベスト・メイクアップに選ばれたこと。「美よりも希望を!」と訴え、CMにラーメンを食べる女子が登場する、何も綺麗事にしない口紅が絶賛を浴びたのはやはりちょっと事件である。正直、メイクものはいつも常連ブランドが上位を独占し続けており、その牙城を崩すのは非常に難しかった。でも今回その山が確かに動いた気がしている。ファンデについに韓国コスメが登場したのも時代の変化を象徴。また下地の超絶マルチ化も目立っていて、これ明らかにスキンケアでしょ? というものがメイクもので評価を得る、やがてこの絶対の境界線がなくなることさえ予感させた。


ベスコスは、化粧品が最終的にどこへ行くかを浮き彫りにする。今期はまさに、史上最大のボーダレス化を炙り出すシーズンとなったのだ。

松本千登世さん

エディター・ライター

松本千登世さん

航空会社、広告代理店、出版社勤務を経てフリーに。美容に関する著書のほか、初の絵本『ピンクのカラス』(BOOK212)を刊行。

化粧品にしかできない快感と実感のループ

ベスト・オブ・ベストに選ばれたポーラのホワイトショットに、初めて触れたときの感動が鮮やかなまま記憶に刻まれています。手に取ると、まるでピュアな水のように軽やかでみずみずしいテクスチャー。それが肌に乗せた途端、「ぱしゃっ」と弾け、瞬時に「すーっ」と奥の奥まで届く。テクスチャー変化の先にある「すーっ」は、今までアプローチできなかった真皮に落ちるメラニンに先手ケアをするべく、届かせたいところに届いている感覚そのもの。心地よさの分だけ効果が得られ、諦めかけていた肌を動かして一歩先の美しさを叶える、「革新」の証しと気づかされるのです。この美容液がトップと評価されたのは、きっとそのため。あらゆる肌が、朝も夜も、昨日も今日も、使うたび、続けるほど、「すーっ」というスピーディでドラマティックな「上向き体験」に目覚めたからに違いありません。


ふと、思いました。薬用雪肌精の化粧水は「しゃばっ」からの「すーっ」。コスメデコルテのジェルクレンジングは「ぷるぷる」からの「すーっ」。SHISEIDOのクリームは「こっくり」からの「すーっ」だし、ソフィーナ iPの泡セラムは「ふわとろ」からの「すーっ」……。ランキングを見て、ずっと掴み切れなかった今期のトレンドが一気にクリアになりました。それぞれ、肌に触れた途端、ユニークなテクスチャーが見事な変化を遂げて、効果に直結する「すーっ」という感覚を叶え、肌が上向く、心が上向く、すぐに確かな上向きのループが生まれる……。


美のあり方がよりホリスティックに、よりサステナブルになっている今という時代。「快感」と「実感」のループこそが、化粧品にできること、いや、化粧品にしかできないこと。今シーズンのベストコスメは、化粧品の未来を如実に語り出している気がしてならないのです。

安倍佐和子さん

美容ジャーナリスト

安倍佐和子さん

化粧品会社、出版社勤務を経て独立。美容誌や広告などのエディトリアルも手がける。ホメオパシーやフィトテラピーにも精通。

受賞コスメから見えてきた新しい“キレイのカタチ”

これまでにないような最新知見に目を見張り、新種のキーワードに心弾ませた上半期。美容のプロたちの関心事は、美白ケアにUVケア、そしてクレンジング類、ファンデーションにルージュやチークといったカテゴリーに集中していたよう。その裏には、誰もが強く惹かれ、時代が向かっているであろう“キレイのカタチ”の断片が見えてくる。例えば、美白ケアは単に表面的に白く透けているだけではなく、その人自身が持つ生命力まで感じさせるような3D領域へとシフト。そして自分だけではなく周りの人にもシェアできる幸福感という高みへ。シミ制御遺伝子を操作するテクノロジーや、目には見えない量子の世界から肌の輝度をみつめるというのは、そういうことなのだろう。百花繚乱のごときルージュのカテゴリーにティント系やグロスが多かったこと、濡れたような輝きを放つハイライター類、ピンクやローズなどのトーンアップ系UVベースが賑わいを見せていたこともそうだろう。アイカラーにいたっては、ずばり幸福感を印象付けるピンクローズ系の輝きに、多くのプロが票を投じていたのだから。


いま私たちが、無意識のうちに引き寄せられているのは、美しさの本質とも言える“キレイのカタチ”。年々厳しさを増す自然環境やライフスタイル、睡眠不足やストレスなど、雑音の多い時代に、いかにダメージの要因を撥ね返し、生き生きと輝き続けることが大切か、敏感に嗅ぎ取っているからなのかも。表面的なキレイは一瞬だけ。欲しいのは、びくともしない透明感に生命力、幸福感や輝きを延命できる健やかなチカラ、それが美しさの本質だからだ。そんな気づきにわくわくした2024年上半期。ここに選ばれた万分の1級の傑作たちは、時代がみつめる“キレイのカタチ”へと、まっすぐに誘ってくれるはずだ。

天野佳代子さん

美容ジャーナリスト

天野佳代子さん

美容誌の編集長を経て美容ジャーナリストに。SNSや女性誌各誌ですっぴんを公開し、その美肌ぶりに「奇跡の67歳」と称される。

革命コスメの登場で、美の可能性が飛躍的に高まった

化粧品市場が活況を呈している。話題にのぼった製品が品切れを起こしたり、新製品の発売日には行列ができたりと、化粧品に対する購買意欲の高まりを示すエピソードがいくつも耳に入ってきた。その理由は今期の製品群を見れば一目瞭然だろう。


スキンケア製品の多くに新たなテクノロジーが搭載され、化粧品では解決できそうになかった肌悩みに、一筋どころではないかなり強い光明を与えてくれた。一方でメイク製品も色やテクスチャーが良いというだけではなく、サイエンスを軸に開発され、つければ若返りが叶うような美容医療級のものが目立った。そんな今期を象徴するスキンケア製品とメイク製品をいくつか挙げてみよう。


今期の美白は一言で「常識超え」と明言できる。美容医療でさえも届かなかった領域へのアプローチを成功させたポーラのホワイトショットを筆頭に、即効を狙ったアルビオン、シミができやすい遺伝的要因に切り込んだオルビスなど、美白の可能性を一気に広めてくれたものが勢揃い。他にも日中の肌悩みを丸ごと引き受けてくれる高級デイクリーム並みのUVケア製品、たるみ改善を即効で叶えるクリームなど、実感値が高い製品がズラリ。使い心地の良さと素早いオフの両軸を叶えたクレンジング製品たちも見逃せない。


メイク製品に目を向けてみると、今期の最大のトピックはリップスティックの大進化だ。KANEBOのルージュに搭載された、唇をふっくらさせるテクノロジーは、唇に色を添えるだけのリップの概念を完全に覆した。RMK、SUQQUにも同様の効果があって、しぼみがちな大人の唇の救世主に。


上半期発売のスキンケア製品及びメイク製品は、もはや“革命”と呼ぶにふさわしい。化粧品市場が活況を呈するのは当然ともいえるだろう。

MAQUIA 8月号
イラスト/itabamoe 文/野崎千衣子 構成/横山由佳(MAQUIA)
※本記事掲載商品の価格は、税込み価格で表示しております。

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