妙にグロテスクな描写があったり無駄にセクシーだったり、シュールなネタに爆笑したり恋愛要素にキュンとしたり……。ちょっとレトロな世界観と日本文化へのオマージュが乙女心をくすぐる、最高にチャーミングなハンガリー映画の登場です。日本人だからこそ笑えるポイント満載なのもこの作品の魅力です!
ファッションも美術も
音楽も演出もおしゃれ♡
オタク女子のドタバタな恋
★今回のおすすめ新作映画★
『リザとキツネと恋する死者たち』
監督/ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ 出演/モーニカ・バルシャイ、デヴィッド・サクライ、ガーボル・レヴィツキ、サボルチ・ベデ=ファゼカシュ 配給/33 BLOCKS(サンサンブロックス) 12月19日(土)新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー
<ストーリー>
元日本大使の未亡人マルタの専属看護師として住み込みで働くリザは、日本の恋愛小説が大好き。唯一の友人は、彼女にしか見えない日本人歌手の幽霊トミー谷。軽妙な歌とダンスで、孤独なリザをいつも元気づけてくれていた。30歳の誕生日を迎えた日、マルタに2時間だけ外出することを許してもらったリザは憧れのハンバーガー店へ。ところがちょうどその頃、家ではマルタがベッドから転落し、帰らぬ人となっていた……。
映画で描かれる
へんてこな日本文化が
最高に笑える!!
【松山 梢の女子ツボPOINT!】
30歳の誕生日を迎えてもなお、恋愛小説に出てくるようなドラマチックな出会いに憧れる、恋に免疫のないちょっとオタクな女子のお話。……てちょっと、日本の少女マンガの映画化? 実はこれ日本文化が大好きなハンガリーの売れっ子CMディレクターによる、記念すべき長編デビュー作。1970年代のブダペストを舞台にした、れっきとしたハンガリー映画なのです。とにかく、劇中に登場する日本文化がいちいちツボ。冒頭から日本の恋愛小説をヒロインがぎこちなく朗読したり、トミー谷なる幽霊歌手が全編日本語の昭和歌謡を軽快なステップを踏みながら歌っていたりと、日本語が理解できる日本人だからこそ笑えるポイントがてんこ盛り。
ストーリーは
日本のキツネ伝説を
ベースにしてる!?
しかもヒロインの周囲で次々殺人事件が起こるストーリーのベースになっているのは、「美しいキツネの化身と恋をする男は次々と死んでしまう」という日本のキツネ伝説。あげく黒澤明の『羅生門』を参考にしたシーンを挿入するなど、監督はバカがつくほどの日本通。「初めて寿司を食べたときに故郷(ホーム)という言葉が浮かんだ」と公言しているくらいですから、本物です。劇中の挿入歌も、来日したときにCDを買い込んで研究した完全オリジナル。いわゆる昔のハリウッド映画に出てくるトンデモな日本描写とはひと味違い、「よくぞここまで研究したな〜」と関心してしまうほど、愛すべきへんてこさなのです。
めきめき美しく
変身していく
ヒロインにキュン♡
日本文化へのオマージュはもちろんですが、特に注目してほしいのはシュールでブラックなストーリーに隠された、根底にある恋愛要素。三つ編みのおさげ姿だった地味なヒロインが、メガネをはずし、髪を巻き、口紅を塗り、レースのカーテンで作ったワンピースに身を包み、めきめき美しくなっていく姿は見ていてうっとりするほど。
その美しさ故に次々と男たちが寄ってくるのですが、スケベ心で近寄ってきた人間は次々死んでしまう容赦ない残酷さに、不謹慎とわかっていても爆笑してしまいます。彼女を本当に愛してくれる男性は果たして現れるのか……。
「大切な人は案外近くにいる」という、ラストで描かれるベタだけど普遍的な恋愛セオリーは、日本のアラサー女子にも間違いなくグサッと刺さるはずです。
〈映画ライター/松山 梢〉
映画のヒロインに感情移入することでかろうじて「女」であることを維持している、三十路まっただ中のライター松山 梢です。自分に足りない女っぷりを向上すべく、そして美意識の高いマキアオンライン読者の女っぷりをさらにアップさせるべく、愛すべき女子向け映画&ドラマを紹介していきます!